のすけ

悪は存在しないののすけのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
2.5
グランピング施設の建設を巡って業者と地元住民でいざこざって話。
趣味の合うとこと合わないとこがあった。フィールドワーク系の研究してたので、この森の中での長回しは大好物。冒頭からして「わかるー!森の中で真上見て歩くの楽しいんよー!」って感じ。
あとは業者コンビがいいキャラ。高速道路のシーンから素の感じが出始めると劇場もウケてた。こういう人おるし、わかりみ。
趣味の合わないのはラスト。唐突過ぎるので正直あまり余韻がなかったし、違う話になった気がしてもったいない気がする。もっと言うと、生身の人間が舞台装置になり下がった気もする。
でもまあ好きだよ。



=追記、ネタバレあり=



ラストの解釈はいろいろ別れるよう。
推測だけど、あの森はどういう場所なのか、巧が何をしてる人なのか実感があるかないかで別れるような気がする。












あの森は、まず、天然林ではない。
針葉樹が占めているし間伐により日照条件が確保されているため、ウコギの様な背の低い木やヤマザクラが伸びたりする。巧はこの土地に来た3世代目って話したけど、たぶん開拓時の天然林から当初の姿を変えている。いわば自然と人間社会の中間に位置する里山の状態。それは見る人が見ればすぐわかるし、それに必要な時間的余白も十分にとっている。

里山は、人が手入れすることが前提に存在する生態系。巧が斧で切っているのも間伐材かしら。役所に業務委託されてやってるんだろうけど、それだけじゃ食えないし林業だけでも食えない。だから「便利屋」を名乗ってるし、売り物にもならない(割に合わない)材木は燃料にしてる。

つまるところ、巧も里山の生態系に組み込まれている。難しいのは巧はおそらくそのサイクルに必要な存在であることが無自覚であるところ。グランピングの説明会で彼が発言した「バランスが重要」ってのは、サイクル内にいる人間としては見当違いに思える。森の視点に立ってみれば、「それってあなたの考えるバランスですよね?」で終わっちゃう。

ちなみに鹿もこの生態系に恩恵を受けている、ある意味で人間側に近い存在で、劇中で鹿の食べた後ってのがわざわざ説明され、里山が維持されることにより生息領域が拡張されている。
そうすると、里山を中間点として、人間社会側に立つ巧たちと、自然の側に立つ鹿の間で対立軸(解釈が分かれてそうってのはこのあたり)が生まれ、ラストシーンはプロット上の必然性を帯びる。
「手負いの鹿」は、この生態系を壊すさらなる開拓(グランピング)に攻撃を仕掛ける。巧自身にとってもそれは予想外の行為だろう。そこに善悪は確かに無い。
のすけ

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