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悪は存在しないのinazumaのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

うっとりするほど不気味な村。
この村には何かとんでもない秘密が隠されているに違いないと思わずにいられない。一見普通の村だけど、この世ならざる異様な雰囲気と不穏な空気に包まれていることをジワジワと認識させられる。
そして極めつけの幻想的な謎ラスト…
いろんな解釈が聴けそうな、楽しい作品でした。

濱口竜介作品を初めてちゃんと観ましたが、全編に渡って不穏な空気を張り巡らせていてとても好み。黒沢清に一目置かれるだけあります。グランピング説明会や車中での先輩後輩トークなど、会話のシーンが聴き入ってしまうぐらい面白いのが素晴らしい。説明会での野次の飛ばし方も大勢で騒ぎ立てるわざとらしいものではなく、とても自然で良かった。
正直冒頭が静かすぎて船こぎそうだったんですが、説明会のシーンで目が覚めました👀


〈以下、勝手な解釈〉
振り返ったらこの映画、序盤からすでに何かがおかしかった。巧がハナを公民館まで車で迎えに行ったけどハナは先に一人で帰っていたというくだり。公民館で遊ぶ子供たちを見守る保護者のおばさんの言動は常軌を逸している。ハナを迎えに遅れて到着した巧に「ハナちゃんまた1人で帰りましたよ」といつものことかのようにサラッと伝えますが、森の中を幼い少女一人で帰らせるなんてどう考えてもおかしい。2度目のときなんか「また1人で帰りましたー」つって子供たちと遊びに興じる始末。善悪云々以前に、非常識。
(ここの公民館のシーン、「だるまさん転んだ」で遊ぶ子供たちの映し方が奇妙。ピコピコの電子音とともに停止した子供たちが次々映し出されるというSFホラーのような描き方が、冒頭からこの村が現実とは別世界であることを示している気がしました)

そして巧といい、友達のうどん屋夫婦といい、感情が表に出ない村人がちらほらいるのが怖い。特にラスト付近で区長が見せる"無表情で何かを見据えている表情"が何を見てるのか分からないところ含めて怖かった。よそ者で構成され、バランスを保ちながら生活しているという巧の言葉から、無表情の村人たちは"何か"を知っているのかもしれない。

巧を含む何人かの村人は、実は動物の化身なのでは?🐱🐺🐰🐮
…頭をかき回された結果、メルヘンな妄想に至ってしまいました。でももし彼らが都市開発により故郷を追われた動物だとした場合、森をハナ1人で帰す件とか、みんな無表情な件とか、悪は存在しないというタイトルもいろいろと辻褄が合うところも出てきます。
ラストにある、撃たれた鹿と、それに向かい合うハナの姿。巧のスリーパーホールド直後、鹿は消えてハナは鼻から血を出して倒れているという場面も強引ですが説明がつけられそう。

ヒントになるであろう"帽子を脱ぐ"アクションが、どういうことなのか分からない。説明会で高橋たちに対して帽子を脱ぐ巧と、ラスト鹿に対して帽子を脱ぐハナは対比的で明らかに何かで繋がっている気がしました。敬意と感服の意味があるようですが、何を示しているのだろうか。。


関係ないですが、不気味すぎてずっと引っかかっている"牛"ちゃんの鳴き声。
ハナが牧草を牛に食べさせた後、土手を歩いて帰る何気ないシーンですが、ここに僅かに被さる牛の鳴き声が途中うめき声に変わってシーンが終わりました。
その直後に巧、高橋、黛が食堂で食事するシーンが始まって「まさか!さっきの牛ちゃん屠殺されてしまったのでは!?😱」と恐怖しましたが普通のうどんみたで安心。あれはなんだったのだろうか…


📖パンフレットの感想📖
正方形のオシャレなパンフ。本作のキッカケが音楽の映像制作で、それなら映画も一緒にと"行き当たりばったり"で作ったという話が面白い。キッカケが意外なのと、そんなんでこんなえげつない映画を作ることができるのかという感動もありました。
構成は監督とキャスト、制作のキッカケを作ったシンガーのインタビューと対談がメイン。舞台となった長野県のロケ地紹介もあります。
コラムがないのが正直物足りない…
映画関係者以外の第三者目線での解説は特に本作に関してはめちゃくちゃ必要だと思います!
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