このレビューはネタバレを含みます
ラストの展開と題名からかなり作品全体の受け止め方に幅があるけど、監督がインタビューで「3回観たら分かった」と言われたらしいから、何度も繰り返し観てその都度受け止め方が変わる作品らしい。ラストは放り投げ過ぎなんじゃないかと思わなくもないけど、不快には感じないから不思議。映像自体や、そこで展開される物語とテーマにおいて、それくらいの強度があるんだと思う。
とりあえず最後の展開は娘を守ろうとして起きた突発的な出来事で、そういった行動も含めて作品全体として、「悪は存在するのか？」と問いかけられているものとして見た。
あんなに綺麗な自然の景色を丁寧に見せられるとまるでその場で深呼吸でもしているかのような気分になって、「そんなものは存在しないんじゃないか」と思わされるけど、それと同時に、作中の人々の言動には、悪意の有無は差し置いても周りの環境や他者への加害性を感じてしまう。
ただ自然と人の共生というテーマに対して、描かれている自然が極端に綺麗過ぎるようにも感じる。制作の過程から撮影をしていく中で物語やテーマが浮かび上がってきたのだろうけど、大きなテーマに対して描かれている場所が理想的過ぎるように見える。作中では一見バランスが取れている人と自然の営みを前提に話が進むけど、そもそも国内、国外問わず見るからにバランスの取れていない地域の方が多いのではないか。
意地悪な見方をすると、たまたま訪れた豊かな自然に感銘を受けた都会人がその場の勢いで作った、大きなテーマを扱った作品と見えなくもない。そこまで言わなくとも、監督にとって綺麗に見える部分だけが切り取られているような感じはしてしまう。『ドライブ・マイ・カー』での手話の一件のような現実社会の当事者を蔑ろにするものではないと思うけど、映像としての「美しさ」が先行して少し現実から乖離した世界観になりやすいのは監督の性質なのかなと思った。（正直この辺をどう評価したらいいのか自分の中でも迷ってる）
