さんしすいめい

悪は存在しないのさんしすいめいのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

生きることはもれなく"善"か

まさに、映画らしい映画。
ストーリーの展開における節々の余白、そして音楽。ことばにならない人情の機微を間と緩急で表現する、小説ではなしえない映像作品であった。
ビクトル・エリセ「みつばちのささやき」に影響を受けているのであろうか。

山での一つひとつ丁寧で、自然を知り、調和した人々の余裕のある生活描写が心地よい。そして、それとグランピング計画担当者の日々に疲弊した姿(お馴染みのドライブシーン)が対照的である。両者の対比とやりとりから、自然豊かな場所への憧れが生まれつつも、自然開発への無意識的な同調への批判も想起されられてしまう。

表題「悪は存在しない」は、ラストシーンに強烈にかかってくる。花ちゃんは、悪意によって亡き者になったのではない。鹿への善意の結果、そして、鹿もまた生きようとした結果である。そこに悪は存在しない。すべては生きようとした過程による結果なのだろうか。冒頭から挟まれた、空を眺めるシーンが、ラストでブラックアウトするなかで花ちゃんの命は尽きたように見えた。いつも正義の側に立とうとし、どこかに悪を見つけようとする現代の私たちを糾弾しているようにも思う。
そして、ラストシーンでなぜ巧は、グランピング計画担当者の男を絞めたのだろうか。自然への畏怖か、花ちゃんの安否を察し混乱に機先を制したのか、そこにも悪は存在しなかったのだろうか。

※個人的な感想です。
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