ゆめちん

悪は存在しないのゆめちんのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.5
悪は存在しない

豊かな自然に恵まれた長野県水挽町は、東京へのアクセスもよく、移住者が近年増加傾向にある。代々この町で暮らす巧と娘の花は慎ましく生きていたが、そんなある日、町にグランピング施設を作る計画が持ち上がる。

物語は原住民とそこへ侵入してくる者という単純な対立構造。冒頭の自然豊かな高原の長回し映像にまずは引き込まれる。

抑揚のない台詞回しで、車やタバコを絡ませながら、ユーモラスと緊迫感がバランスよく繰り広げられる会話劇。何げない話題から徐々に深い話に入っていく自然な流れが絶妙で、濱口監督の独特な世界観を今作でも存分に味わえる。

そして何と言ってもラストの展開。これからグランピング計画がどうなるのか固唾を飲みながら観入っていたら、唐突な結末で、余韻も何もないまま一方的に突き放される。
一筋縄ではいかない濱口監督ではあるものの、想像力が限りなく広がるラストに、いい意味で "ずるさ" を感じる。ラストをどう解釈するか、何を伝えたいのか、観終わって色々考えてしまう時点で、既に監督の術中にはまってしまっている。

グランピング設置に反対する地元民の多くが都会からの移住者だし、芸能事務所の2人もそんなに悪い人物ではない。田舎と都会、豊かな自然と巨大ビル群、環境保護と地域活性化、上流の住人と下流の住人など、立場や視点が変われば、悪は善になるし善は悪にもなる。"バランスが大事だ" という台詞が劇中にあるが、その善と悪の境界はどこにあるのか、そもそも境界を線引きする必要があるのか、映画は観客に問いかけているように思えた。
ゆめちん

ゆめちん