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悪は存在しないのuのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
2.8
風光明媚な土地、長野県水挽町にグランピング施設が設立される話が持ち上がり、企業は説明会を開催するも内容に納得がいかない地元住民達は猛反発。
住民の気持ちを理解しつつ、再度説得を試みようと部下を連れ水挽町へ向かう…。

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シンプルに嫌いだわ〜。
ただ、そんなことだけ言っても仕方ないのでもう少し自分なりに深掘る。

大枠は〈都市〉と〈田舎〉がテーマにはなっているが、他にもあらゆるところで二項対立的な描き方がされている。〈親〉と〈子〉、〈人間〉と〈動物〉、〈自然〉と〈文明〉、〈生〉と〈死〉などなど。

この作品は特に長回しが巧み。自然の美しさを捉えるカメラワークや、定点で一連の流れを途絶えさせずに場面転換させていたり、会話中の登場人物たちの思考に同化していくような手法は自然と映画の世界に引き摺り込まれる感覚がある。展開が小気味良いわけでもないのに、引き伸ばしたシーンをだれさせずに楽しませるのはお見事。

石橋英子が手がけた深遠な音楽も背筋が伸びて非常に心地良い。特にチェロとバイオリンの重奏が素晴らしい。クレジットで気付いたがジム・オルークもギターなどで携わっていたとは!

ただ、誰しもが考えさせられるあのラストに関しては、あまりにファンタジーで観客に委ねるというよりも投げ槍に感じる。
テーマが深刻な社会問題なだけに、そこを曖昧に蔑ろにされたまま終わっていいわけがない。結果として、ラストシーンや登場人物の内面、絵作りの話に挿げ替えられて評価されてしまっている現象は非常に残念。
この作品はあまりに映画的というか、あのような締め方にするのであればこういったテーマを用いたのは不適切に感じる。
ブレッソンやオリヴェイラを意識してたのか?もしそうだとするならばもっともっと突き詰めた演出が求められるし、まあきっとそうではないのだろう。
奇遇にもトッドフィリップスのジョーカーとテーマ選定や制作プロセスが似通っていてそういった類の作品は須く苦手、というか嫌いである。

濱口監督が自ら語っているように(https://fansvoice.jp/2024/05/03/evil-does-not-exist-hamaguchi-interview/)、音楽ありきの映像作品が出発点でそこからは制作過程において偶発的に誕生したアイデアを積み重ねていった結果とのことなので、こういった批評自体がお門違いなのは理解しつつも腑に落ちなさはどうしても残る。
映画的に見れば巧みで面白いが、メッセージ性やトータルで見るとイマイチ。

悪は存在する。それは人間という生き物。
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