ヤマダタケシ

悪は存在しないのヤマダタケシのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

2024年5月 bunkamura渋谷宮下で
・なんか騙された感じと言うか、そっちの話だったか!というような印象が観終わったあとにあった。それは何となく、言葉でこの映画を捉えようとし過ぎた結果な印象な気もする。
・基本的に映画の大半は、〝水は上から下に流れる〟という構造を中心に進んでいたと思う。
└村での生活をある程度描いた後に始まるのが芸能事務所によるずさんなグランピング場の開発と、それに反発していく住民たちのパート。この公聴会のシーンから、いわゆる物語は展開しはじめる。
→住民やその場所の事、場所が成立するために必要なことを考えず、〝それがお金になるから良い〟という理屈でのみ物事を進めようとする社員ふたりと、地域住民たちの話し合い。そして、地域住民から意見を聴いた社員たちが、東京の事務所で行う社員と社長そして経営コンサルタントとの話し合い。この映画には二つの話し合いが存在し、いかに儲かるかという理屈を中心に、経営コンサルタント・社長→社員→住人というように上から下に流れて行く構造がある。
→個人的にこの上から下への構造を中心に描かれるパートにおいて思い出したのは坂下雄一郎監督の『エキストラランド』だった。お金になるからそれをやろうよ!という経済の理屈を中心に、現地に行かず儲かるからという理屈だけで存在する都会の人と、そのムリな指示を受け現地の人を言葉巧みにだまそうとする人(今作の女性社員が言う「住民はあなたが思う程バカじゃ無いと思いますよ」のセリフが印象に残っている)、儲かるからという理屈が持ち込まれる事で混乱する現地の人々。
・つまり前半部分では、特にお金をより効率的に設ける、そのための役割を演じるという形で上から下への構造がありつつ、その役割から次第に離れた本音の会話、というかその人個人同士の会話が行われていく事によって少しずつ構造によって対立していた人々の関係がほぐれて行くような感じがした。
└前半のそれぞれの役割・立場による会話シーンに比べ、例えば自分の身の上を話す車内の会話シーン(この会話シーンの自然な感じと、そこでの感情の起伏。苛立ちから男性社員が少し声が大きくなってからの緊張感がとても濱口監督作品ぽいなと思った。日常の会話の中にある緊張感というか、会話の中にふと現れる暴力性への敏感さ)や、薪を割るシーンなど、少しずつ役割から離れ、本人同士の〝対話〟が行われることが、今作前半部の面白い部分であった。
└しかしそれは構造や対話というあくまで言葉によって定義された話だったと思う。

・しかし今作、主人公の娘の花が失踪するという突如のアクシデントが発生し、そこからなんか物凄い方向に話が動き始め、とんでもないところで映画が終わる。
└ラストシーンで主人公、男性社員がたどり着く霧がかった原っぱは、何かあの世のようでもあり、その中で鹿と対峙し、意識を失った娘を背負って主人公が森へ入っていくラストは、何かあの世の縁から娘を連れ帰るようでもあった。
⇒それまで都会と地元、二つの対立によってこの物語は進んでいるように観ていたので、正直、この急な失踪展開には置いて行かれたような、というかそこで話が終わる事に置いて行かれたような感覚がしつつ、その実、この展開自体は、構造の話と同時進行できちんと描かれていたもののように思った。

・作中で何度か鳴り響く銃声と森に転がる鹿の骨など、最後の結末に繋がる要素は作中に何度も登場し、うっすらした不穏感を作品全体に漂わせていた。
└そして例えば公聴会の様子を見つつ、いつの間にかそこから離れ森の中を歩き続ける花の姿は常に居なくなりそうな不穏感があった。
→特に印象的だったのが、横移動のカメラが森で歩く主人公を捉えたカット。カメラと歩く主人公の間に木が挟まり、一瞬主人公が映らなくなった後、再び主人公が映るとその背中には花がいる。なんというかいきなり花が現れたようにも見えるカットであり、と言う事は花自体が突如いなくなりそうな気配もそこにはある。
→また凍った湖などのモチーフも死を連想させ、なんというか実は『となりのトトロ』のような、幼い子の失踪を連想させるモチーフは作中にいくつもあったのだ。
→常に花が鳥を追いかけている事も、何か彼女が地に足ついていない感じというか、そんなようにも見えた。
└また印象的だったのが、突如音楽が止まる演出。森の中でそれがあった際、いきなり不穏な音楽が流れ始める以上の不穏さ、何かが起こった感じがあった。
└花にまつわるカットで言うと、カメラも一緒に動くようなシーン、それが止まる!という事が繰り返されていたと思う。花を背負って歩く主人公、花以外の子供がいるだるまさんが転んだ等。


・ワンカットの中で過去になっていくこと。
・『ハッピーアワー』コンビが出ている
・横移動、音が切れる演出。