1000

悪は存在しないの1000のレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.0
『水』とか『鹿』でいいところを『悪は存在しない』なんてタイトル付けるもんだから、「これはパイプではない」みたいなことになってしまった。
しかし、いやはや濱口竜介。すごいとは知っていたが、ここでスローシネマとはいよいよな感がある。『悪は存在しない』という主題すら、まだ軽いジャブなのだろう。

おそらくは妻であり母である人物と死別した男と娘。最初から最後まで、利己的な動作がほとんど見当たらないあたりに、この二人がもう自己保存としての生に執着を失っていることが暗示されている。他人のために水を汲み、他人のために羽根を拾う。二度繰り返される薪割りの場面も、長々と映したわりにようやく暖炉に焚べられるのは、どちらも来客のある場面。救済の予感すらない、暗い話だ。

ダル絡みしてくる娘を無視して男がお絵かきしている場面は、どう見ても変なのだが、あれが引き返せる最後のチャンスだったのだろうか。あの、映画のほぼど真ん中に配置されているシーンを境に、もう全部どうしようもなくなってしまった。ラストも、理不尽のうちに妙な納得感があるのはそのせいだろうが、それはそうとして「やってんな〜」という気持ちが上回りちょっと笑ってしまった。

どうでもいい連中を徹底的にどうでもよく描写するあたりが意地悪でいい。「プレイモード」って企業名も馬鹿っぽいし、あの社長とコンサルの人物造形は、相当馬鹿にしてないとできない。
1000

1000