いやーすごくいいものを見た。片手に収まるぐらいの、小さな映画。
乗り過ごし自体はほんとうに些細なトラブルなのだが、もっと大きく、根本的に解消不能なトラブルと重ね合わせる手つきがお見事。これは帰れなくなってしまった人の話だが、帰りたくない人の話でもある。
鳥のさえずる南国は、寒くて暗い夜のブリュッセルと対になるモチーフとして何度も暗示される。ラストのビーチを駆け回る娘は、さながら断食芸人が片付けられたあとのヒョウだ。それは皮肉で救いもないが、ある種普遍的な人生のサイクルなのだろう。
主題も映像もミニマルなだけに、冒頭のポエミーな語りをカットすればより良い映画になっただろう。これがどういう映画なのかぐらい、画面を見ていれば十分に分かるのだから。
空白を埋めていくエンドロール(ロールしない)も素敵だった。ああいう仕方で、心に空いた小さな穴も埋まってくれるといいのにね。流れ去ってしまってあとになにも残らないよりずっといい。