のすけ

人間の境界ののすけのレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
4.5
2021年、ポーランド・ベラルーシ間の難民問題の話。

前半はまるでユーモア皆無の不条理小説のよう。両国ともから受入拒否された行き場のない難民たちが森林の国境を行ったりきたり。2015年からこの国境地帯で3万人の死者が出てる。
(不条理小説って書いたけど、それはイメージしたものがあって、安部公房の「壁」とカフカの「流刑地にて」。前者は人間が壁に変身する話、後者は何のために存在するのかわからない処刑器具の話。どちらも現実の人間が不条理の実存であるっていう洞察と皮肉。それを実際の出来事になぞって描いたように思えた。)

難民、国境警備隊、人権活動家から描かれるが、価値観が違うはずの3者の視点がシームレスに繋がる事に驚く。結局、この不条理に関わっている一人ひとりはごく普通の人だからだ。手に負えない問題って話じゃなく、あなたにもできることがあるよっていう前向きな着地をしてる。流石に人権活動家達のやってる事を真似できる人はあまりいないと思うけど、そこまでしなくても不条理にささやかな抵抗ができることが示される。
その辺りは身近に引き寄せられる物語に感じたし、映画のサイズ感的にも重すぎず丁度いい感じになってて、人に勧めるとき「面白いよ」って言い方ができるな。後半の人権活動家たちのアクションはスリリングさもある。

「人間の境界」って邦題は、ある意味原題より深い。どこを踏み越えれば人間でなくなるかってのもあるし、不条理として立ちはだかる壁は、有刺鉄線や国境でなく、まさしく生身の人間であると示されている。

こういうテーマの話で、「これは僕のための映画だ」って初めて感じたかもしれない。
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