絶望の中でも、踊りたい。
一人の男の人生を追う。
今作の構成はほとんどが回想だが、そこには緊張感がある。それはしっかりとこちらの感情を揺さぶってくる過去を描けているからだと思う。物語の展開自体はけっこう王道で、大きな裏切りや斬新さがある訳ではない。しかし冒頭で主人公にどっぷりと感情移入させてくれるおかげで映画内世界に入り込める。
正直、主人公の幼少期の話はそんな酷い親いるのかと戸惑うほど強烈なのだが、成長した後の主人公の人格形成に妙なリアリティを感じられたのがとても良かった。壮絶な過去とは裏腹に復讐心に燃えていたり、全てを諦めたような感じでもなく、至って淡々と犬と幸せに生きるために必死な様子は逆に彼の深い傷を際立たせているようだった。
彼が懸命に生きていく姿には心打たれるものがあり、彼の幸せを切に願いながら見ていた。しかし、だからこそクライマックスが近づくにつれて、彼が冒頭で警察に捕まった後の回想を我々は見ているんだという事実により切なくなってしまう。
骨太ヒューマンドラマと括ると、やや大袈裟な音楽や派手な犬のアクションなど、エンタメ要素がかなり目立つ印象は受けた。それは僕としては何もネガティブなものではなく、むしろこの悲劇を悲劇で終わらせず、あくまでエンターテイメントに昇華するんだという強い覚悟を感じられて良かった。
ラストシーンにかけて、衣装含めて流石にジョーカー過ぎるなぁと感じたノイズは否めない。この映画を好きになれていたからこそ、ラストに別作品のことを考えてしまったのは勿体無い。