骨折り損

ノア 約束の舟の骨折り損のレビュー・感想・評価

ノア 約束の舟(2014年製作の映画)
3.8
本当にこの監督は、人間の極限状態を描くのが上手い。

アロノフスキーが監督したという事実がなければ、正直この映画をそこまで見ようとは思わなかっただろう。旧約聖書にまつわる話自体は好きだが、映像化するとなると聖書を引用した表現などでない限り、そのままの話をまた映像で見ることにはあまり興味をそそられない。

案の定、前半は突然地面から水が湧き出て川が生まれたり、一瞬で荒地に森が生まれたりと、聖書をなぞるだけでは実際に見る映像としては咀嚼するのが難しい部分もあった。そして「ノアの方舟」という事の顛末自体も知っているとなると、方舟を作って動物たちを連れていくという工程に驚きも生まれにくい。前半はかなり作品の見方が定まらなかった。

しかし、方舟が洪水で流されてからがこの映画の本領発揮となった。アロノフスキーの真骨頂である「異常に目的に執着した主人公」から生まれるドラマだ。方舟の中、残された人類=家族にノアが神の意思を告げる。そこから摩擦が生まれ始めるのだが、ノアの鬼畜さ、そして彼の狂人的な意志の強さから目を離せない。「なんだこいつ、最悪なんだけど」そんな風に本気でイラついたりもした。それだけこの映画のキャラクター達の関係を自分ごととして捉えていた。

宗教に救いを求めた人類は、皮肉にも神によって絶滅へと追い詰められる。でもそれはなぜか。神の意思は何を伝えようとしているのか。苦悩する人類の生き残り達に自らを照らし合わせて、生きる意味さえも考えさせられる時間だった。
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