耶馬英彦

ある閉ざされた雪の山荘での耶馬英彦のレビュー・感想・評価

ある閉ざされた雪の山荘で(2024年製作の映画)
3.5
 東野圭吾の原作は1992年の発表で、本作品は舞台を30年後に移した格好だ。全員のスマホを取り上げれば、条件は30年前とそれほど変わらない。ということはこの30年間で変わったのは、スマホに代表される通信の多様化、高速化だけだとも言える。物語とは別のちょっとした感慨があった。

 最終オーディションの主催者である演出家の声に聞き覚えがあり、エンドロールで大塚明夫の名前を見たときは、やっぱりいい声だなと思った。客席に若い女性がたくさんいたのは、大塚明夫の声が目当て? だといいけど。

 見どころは登場人物である役者たちの演技だ。演技する役者を演技する訳だから、ややこしい演技であることは確かだが、役者陣はいずれも好演。間宮祥太朗は2017年の映画「帝一の國」の演技が素晴らしくて、以来注目している。本作品でも気取らない性格のスター俳優を存在感たっぷりに演じている。女性人気はこちらか。
 それ以上によかったのが、やや性格破綻した田所を演じた岡山天音。この人は本作品と同じ飯塚健監督の映画「FUNNY BUNNY」でもリアリティのある演技をしていて、青春の群像劇には引っ張りだこになるだろうと思っていた。先週公開された「笑いのカイブツ」では癖のある主人公を怪演している。本作品の田所も怪演と言っていいだろう。それにしても性格破綻した人間というのは、世間のパラダイムを拠り所にするものだと、妙なところに感心した。そのあたりも含めて、岡山天音は満点だった。

 原作は読んでいないが、サスペンス調だから、前半を見れば犯人の予想はつくし、真相もなんとなく想像ができる。登場人物が間取り図の中で演技するシーンが何度もあり、この作品自体がひとつの舞台であることは、大方の人が理解しながら鑑賞したと思う。退屈することはなかったが、驚きの真相というほどではなかった。暇つぶしにはちょうどいい感じの作品である。若い客に人気なのは、東野圭吾の原作だからかもしれない。
耶馬英彦

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