「ぼくは君たちを憎まないことにした」この世でもっとも勇気ある言葉の一つだと思う。何度も反芻した。大切にしたい言葉の一つになった。
それでも身近な人たちとは衝突してしまうし、許しを乞う相手においそれとそれを与えてはあげられない。「憎まない」という意思は本物であっても、心は決して追いつかない。
(赦すことの難しさについては、李清俊さんの『虫の話』という短編小説を思い出した。あれも強烈な、忘れられない作品)
人間というのは裏腹で、だけどそれでいいのだとも思う。渦中にある人にとっては酷なのかもしれないけれど、怒りや悲しみは、きちんと感じてあげなければ抑圧されてしまうから。いつか腐臭を放ってしまうから。
子役の子、これは演技なの…?と心配になるほど自然で、やっぱりそれは(辛い場面で名演技をする動物たちにもいえることだけど)ある種のノイズになってしまったな… 余計な心配ならいいのだけど。
それから、彼の意思を、選択を、他人事としてではなく受け止めながら、だけどただの「美談」として消費してしまわないよう、気をつけていたいなとも。これはあらゆる現実の悲劇にふれたとき、忘れないでありたい。他人事で終わらせてしまわないことと、だけど決して自分の物語にはしてしまわないこと。そのバランスがとても大切で、難しい。見えない部分はいつだってある。
原作も必ず読みたいな。
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本作を観ながら思い出したことメモ ✒︎
・『サピエンス全史』や『ホモ・デウス』で、なんてすごいひとなんだ…!と敬服したユヴァル・ノア・ハラリさんがイスラエルの方だと気づいて、パレスチナで起こっていることをどう見ているのか、インタビューを見た。「私の思考もゴミだらけです。時には憎悪や怒りもあります」とおっしゃっていて、あんなにも明晰な頭脳をもつ「知の巨人」でさえも… とショックを受けた。ご本人への失望ではなく(憎しみで視界が曇ってしまっていると自覚し告白するのにも勇気は必要だと思う)、人間の限界として。『虫の話』然り、誰かを本当に赦すこと、憎まないという選択をすることは、どれほど大変なことなのか。想像するに余りある。それでもみんながその選択をできたなら、と思わずにはいられないね。
・「君の幸せだけが、君に起きたいろんなことに対する復讐なんだ」という言葉がエンドロールでふっと蘇った。調べたら、よしもとばななさんだった。
・チョン・ソンラン『千個の青』より、幸せな瞬間だけが過去に勝てる、ということも思い出したな。
どうか彼らのその後が、穏やかな光の中で続いていきましたように。