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52ヘルツのクジラたちのmanamiのレビュー・感想・評価

52ヘルツのクジラたち(2024年製作の映画)
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町田そのこの本屋大賞受賞作、ずっと気になっていたのでまずは原作を読んで、それから今作を鑑賞。成島出監督はあまりしっかり意識したことなかったけど、これを機に過去作リストとか見てみたら、近年は原作ものばかりなのね。脚本はもう書かないのかな?
まあ、それはともかくとして。キャストでは、アンさん役・志尊淳と美晴役・小野花梨が特にイメージ通りだわ。貴瑚は誰がやっても難役、合ってる合ってないと言うのも難しいくらいだけど、杉咲花はさすが、見事、複雑な境遇と心情を繊細に表現してくれてる。
ストーリーの方も原作と比べると、アンさんに出会うまで、主税との関係性、村中との交流、52の家族などなど、まるまる削られてる部分がかなりある。その分というか映画版で加えられてるのはアンさんについての細かな描写で、キナコとアンさん二人の物語がメインだとはっきり打ち出されてる印象。
キナコと一緒にいない時のアンさんがどんなふうに過ごしていたのか、どんな部屋でどんな生活をしていたのか、アンさんに何があったのか。繰り返し語られる「魂の番」という言葉、アンさんが「魂」を、目には見えないもの実在してるのかすら証明できないものを大切に思っていたのはなぜなのか。
アンさんとキナコの過去に何があったのか見えてくるにつれ、少年の未来を守ろうとするキナコに寄り添う感情が生まれてくる。
不幸すぎる話は本当は得意ではないんだけど、原作では柔らかい空気感に、今作では役者陣の演技力にカバーされて、しっかり味わうことができた。
「52ヘルツのクジラ」は世界に一頭しかいないのに、タイトルが「クジラ」でなく「クジラたち」なことに、私も、もしかしたらどこかの誰かも、きっと救われる。
浴槽から流れて海に辿り着いて、クジラと一緒に泳いで、雨になって降り注いで二人を出会わせてくれたのかな。

40(1750)
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