tak

52ヘルツのクジラたちのtakのレビュー・感想・評価

52ヘルツのクジラたち(2024年製作の映画)
3.8
いざ観てみればいい話だし、役者のいい仕事も見られるし、もちろん感動させられる。だけどついつい重いテーマを扱う日本映画を避けてしまう。別にお気軽なエンターテイメントだけを求めて観る映画を選んでる訳じゃなくて、社会が問題としている事から目を背けるつもりもない。ただ映画館で辛い思いをしたくない。

それに重いテーマを前にした自分が、どんな感想をもってしまうのかが怖くなることもある。他人事にしか思えなかったらどうしよう、逆に身につまされる要素を何か感じ取って過剰に感情が揺さぶられてしまったらどうしよう。スクリーンに向かう自分が試されているような気持ちになって、劇場鑑賞に二の足を踏んでる映画はあれこれある。観たけれどうまくレビューできないものもある。「52ヘルツのクジラたち」も正直なところ、観ようと思うまでに時間を要した。

ヤングケアラー、ネグレクト、ドメスティック・バイオレンス、トランスジェンダーと多くのテーマを抱えた原作小説。それだけの要素がきちんと描かれているのか。表面的な話にとどまっているのではないのか。観る前に少なからずそう思っていたのだが、それは杞憂だった。文章では描けても、映像化するために補完しなければならないことに真摯に向き合った映画だと思えた。観てよかった。

杉咲花ら、出演者は当事者の方々に不快な思いをさせないように役作りをしていたと聞く。画面に登場する人それぞれが、自分の思いに真っ直ぐ。辛い場面やエピソードも出てくるけれど、言動の裏にある気持ちを考えること、手を差し伸べてくれる人の温かさを思い知ることができる良作。魂のつがい、いい言葉だな。

届かない声だけれども、映画でなら誰もがその気持ちに寄り添える。気持ちを知ることができる。それは物事に向き合うための第一歩だ。

少年の身寄りを探して訪れる小倉では、小倉駅とチャチャタウン小倉の観覧車が登場。毎度思うが、北九州ロケはほんっとに自己主張強めw。海を見下ろすバルコニーは、大分の別府湾を見下ろす高台にある住宅を使ってロケが行われた。確かにこの風景を撮るためには、穏やかな海に向かって斜面が広がる別府市は格好の場所だろう。海に面した佐賀関の風景と倍賞美津子や金子大地の大分弁がちょっと温かな気持ちにしてくれた。
tak

tak