しん

トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代のしんのレビュー・感想・評価

3.5
一つのところに決してとどまらない加藤和彦の生き様を描くなら、彼の曲を並べればいい。そのシンプルさが潔く、そして正解だったと思う。ザ・フォーク・クルセダーズからサディスティック・ミカ・バンド、そしてヨーロッパ三部作へ。常に追い立てられるようにスタイルを変え、変えたスタイルにもとどまろうとしない彼の先進性が明瞭に表されていた。

本作を見て、加藤は楽しかったのだろうかと考えてしまった。『帰ってきたヨッパライ』や『イムジン河』を歌っていた時期から考えると加速度的に高まる知名度と期待。そこから逃避する加藤は金をかけることで一流とふれあい、そして無理をおしても海外へと飛び立つことで現地の空気と触れ合った。しかし作中で坂本龍一が言っているように、そこで触れた空気は「植民地」的なものだった。期待から逃れるためにスタイルを変え続ける加藤が、どうしても逃れられないエスタブリッシュメントとしての宿命。そう考えると、ヨーロッパ三部作からはものすごい切迫感と悲壮感を感じないでもない。

もちろん加藤の全盛期を知らない若造の戯言である。もう一度、まっさらな気持ちで聞き直してみよう。
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