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アイアンクローのregencyのレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
5.0
詳細レビュー↓
https://cinemarche.net/drama/theironclaw-matsu/

表向きはショーマンシップに満ちて華やかなプロレスだが、その実は過酷だ。人気レスラーになって大金を稼いでもすぐ散財し、各地を巡業する生活で家を空ける頻度が増えて家庭内不和となり離婚。さらには日々の試合でボロボロとなった体の痛みを和らげるため、鎮痛剤が欠かせなくなるうちに薬物中毒に――悪い例ばかり羅列しすぎだろと思うだろうけど、こうした状況に陥ってしまったレスラー(主にアメリカ)は少なくないのが実情だったりする。
フォン・エリック家長のフリッツは、家庭こそ(一応は)円満でも、自ら果たせなかったNWAヘビー級王座獲得の夢を息子達に強く託す。マチズモは確かにあるだろうけど、破天荒にならぬよう安定した生活を送ってほしい故の親心もなくはないだろう。しかしそんな父に「サー(Sir)」を付けて従順する息子達に、運命は悲劇をもたらす。プロレスファンだからフォン・エリック家の呪いは知っていたが、こうして映像化されるといたたまれないものがある。
そんな一家の呪いから逃れようとする次男ケビン。失礼ながら兄弟の中でもプロレスセンスが凡庸だった彼だけ存命というのも残酷すぎやしないか。『レスリング・ウィズ・シャドウズ』といい『レスラー』といい、どうしてこうもプロレスを題材にした映画はプロレスファンの心をグサグサ刺してくるのか…
三沢光晴が試合中に亡くなったショックで10年間プロレスが観れなくなった事がある。リング上での屈強な姿を見てきたからこそ、プロレスラーの死は余計悲しい。観る者の感情を身を捧げて揺さぶってくれたレスラーこそ報われてほしい。
作品冒頭とラストで、ケビンはアイアンクローを仕掛ける。かけられた相手も同じだが、その意味合いは大きく違うのだ。

余談だけど、『レスラー』公開時は宣伝PRに協力する日本のプロレス団体が皆無だった。多分ケーフェイの内幕をあからさまにしていたから協力し辛かったのだろうけど(みちのくプロレスのグレート・サスケが試合のストーリーラインで引用していたぐらいか)、本作ではPRに新日本プロレスが協力していた。本作でもケーフェイ描写はあったけど、プロレスへの認知度合も変わったものだなぁ。
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