たく

アイアンクローのたくのレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
3.8
伝説的なプロレスラーである父に同じプロレスの道を歩まされたフォン・エリック兄弟の呪われた人生を実話を基に描いてて、前半の兄弟仲睦まじい様子から一転して悲劇が襲いかかる後半のギャップに気分が暗く沈んだ。支配的な父親が子どもを一流選手に育てる話には、「ダンガル きっと、つよくなる」「ドリームプラン」など終わり良ければ全て良しみたいな話もあるけど、本作の兄弟たちの浮かばれない人生を知ると、終盤のせめてもの供養みたいな演出がなかったら救いようのない作品になってたと思う。

フリッツ・フォン・エリックの名前は当たり前のように知ってて、昔にテレビでプロレスの試合を見たことがあったと記憶してる。そんな彼が、冒頭のモノクロシーンで得意技であるアイアンクローを披露する姿に獰猛な王者の風格が漂う。彼が結局は世界ヘビー級チャンピオンのベルトを獲得できなかったことが、息子たちに執拗なまでに自分の夢を実現させようと仕向けたきっかけになったんだろうね。この厳格で無慈悲な父親と、異常に信心深い母親に支配された息子たちが父親に言われるがままプロレスラーの道を歩んでいく中で、次男のケビンが誰よりも兄弟を大事にしてるところに人間味が漂う。

ケビンが心優しきウブな男なのは、彼のファンであるパムがサインを求めて積極的に近づいてきた時に女性との話し方も知らないところや、カーセックスするところでまさかの童貞が判明するあたりに現れててほんわかした。パムがいたからこそ、ケビンが父親の支配から逃れることができたのかもしれない。兄弟のうち末っ子のマイクだけが音楽に傾倒してて、このまま自分のやりたい道に進んでくれと願ってたら案の定の展開にやるせなくなった。

兄弟の死に際して涙を流すことさえ許さなかったり、兄弟たちが抱える問題を全て兄弟で解決しろと言って突き放す父親が客観的に見れば毒親なんだけど、生まれた時からその環境に放り込まれた子どもたちは事態の異常さになかなか気付けない。調べたら本作には登場しない自殺した六男のクリスもいて、さすがにえげつなさ過ぎるから省略したのかな。役者では、ザック・エフロンがちょっと年齢が釣り合わない感じがしたけど、「テッド・バンディ」のサイコパス役と正反対の人間味溢れる演技を堪能した。彼に寄り添うリリー・ジェームズが良かったね。
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