デニロ

アイアンクローのデニロのレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
3.0
かなり前、映画館に置いてあった本作のチラシを手にして、まさかプロレスの話じゃないよね、と思ったものでしたが、まさしく鉄の爪フリッツ・フォン・エリックの事だった。え、こんな題材で客が入るのか?ジャンル/プロレスの裾野は広いのか、マーケテイングしてあるんでしょうからそれなりの目算はあるんでしょうけど。

とはいえ、わたしは、フリッツ・フォン・エリック(F.v.エリック)が初来日した頃はよくプロレスをテレビで観ていたもので、その頃は「ディズニーランド」と隔週放映だったと思う。当初は、「ディズニーランド」を楽しみにしていたけれど、いつしか今週はプロレスじゃないのかと、そんな風に変わっていった。当時、日本プロレスのエースが豊登からジャイアント馬場に変わり、若きジャイアント馬場のスケールの大きさとスピーディな動きに今までとは別のプロレスを観ている思いだったことを覚えている。

F.v.エリックの見世物は終盤に繰り出すアイアンクロ―なんだけど、それを出すまでは蹴飛ばしてばかりいた印象がある。だから試合は単調で早々に反則蹴りからヒートアップして観客を興奮状態にしてアイアンクローで顔面を掴む、否、いきなりそんなことはせずにお腹を掴み上げるストマッククロ―で助走するのです。で、ここぞというところで32㎝の掌を顔面に移し被せるのです。すると額からダラダラと血が流れ、息も出来なくなり、ギブアップするのです。わたしは、対ジャイアント馬場しか記憶にありません。

さて、そんなF.v.エリック一家の物語。妻と幼い子どものため上に上にとプロレス家業に励んでいます。何とかしてNWAの世界チャンピオンとなって千金を得たい!!が、NWAのチャンピオンになるには人気が伴わなければプロモーターからの支持は得られません。彼にそのチャンスは巡っては来ないのです。

月日は流れ、息子たちが成長しプロレスラーになっております。本作ではケビン、デビッド、ケリー、マイクの4兄弟に焦点を当てています。その中で父が期待しているのが身長の一番高いデビッド。ケビンの方が年長ですけれど華がない。デビッドの方が見た目もいいしマイクパフォーマンスも刺激的。父が一家をアッピールした結果、NWAヘビー級世界チャンピオンの挑戦権を得る。当時のチャンピオンは美獣ハリー・レイス。このレスラーも日本初登場の時にテレビで観ている。20代半ばの初々しい感じだったけど、本作では中年の肉の弛みかけた姿で古参のチャンピオンという感じだった。で、そのデビッドがタイトル戦を前に日本遠征中客死する。1984年。享年25歳だったという。この頃はプロレスに興味がなかったのでニュースで知ったのかどうだったのか、エリックの息子がプロレスラーになっていたんだというそんな記憶だけがある。

ケリーは、バイク事故で右足のくるぶし下を切断。その後、義足でカムバックするけれど、コカイン使用で起訴、実刑の判決で収監前日にピストル自殺。1993年。享年33歳。

マイクは、見るからにのほほんとした性格で、闘争向きには見えないけれど、父親の野望のためにプロレスラーになる。もともとやる気なんてないのに無理やり鍛えられて怪我。もうオヤジの下にいたくない。ここよりましな場所に行く、と薬物自殺。1987年。享年23歳。

鉄の爪エリックさんがこんなことになっていたなんて。つらつらみていると、語り部はケビンになっていて、父親への恨みつらみが募っていきます。弟の踏み台になっていくようなそんな悔しさを持ちながら父親の命にはとても逆らえない、自己主張がなかなかできないそんな若者が肉体をぶつけ合う中のアッピール合戦に勝ち残れるわけもない。ハリー・レイスやリック・フレア―のパフォーマンス、エンターティナー振りには到底及ばない。かつて、アイアンクローというギミックで観客にアッピールして支持を得ていた父親にはそれが分かりすぎるくらいわかっていたのでしょう。

兄弟の活躍で大儲けしているはずのエリックの団体。次々に兄弟が死にゆき下火となった頃、事業を父親から譲られるケビンは帳簿を観て愕然とする。帳簿に載っているようなファイトマネーを受け取ってない。父さんひどいじゃないか!!鬼の形相で父親の首を絞めるケビン。このパフォーマンスが出来れば一流のレスラーになれたのに、と、首を絞められながら父フリッツ・フォン・エリックは思っただろうか。

「巨人の星」の星一徹、飛雄馬親子の如くのモラルハラスメントで子どもの死を数えていく。呪われた一族の長として悲しみの感情を押し殺すというよりもむしろサイコパスなんじゃないかとも思えるF.v.エリックの所業。いつしか誰も居なくなり、晩年は淋しいものだったようだ。

ケビンは、父から譲られた会社を売却する。四人のこどもと沢山の孫たちに囲まれて牧場で暮らしている、と映画はそこで終わっていたけれど、噓でしょ。

こんな作品になんで出演したのかしら、リリー・ジェームズさん。
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