アイアンクローの映像観し者のネタバレレビュー・内容・結末

劇場で鑑賞。
自分の人生に刻まれる心の映画の一本になった。

予告で明かされている通り、本作は毒親からの脱出を描く物語だ。「男は一人で体を鍛え成功しろ」「涙を人に見せるな」という性規範を押し付け他者の感情を奪い駆り立てるトキシック・マスキュリニティが、子供たちから自由を奪い、悲しむことすら許さず、地獄に落とし込む様がまざまざと描かれる。
冒頭から金がないのに高級車をレンタルし、成功してやるぜと意気込むフリッツ。そんな夫を前に神に祈る妻。そして時代が現代に移ると家族写真⇒キリスト⇒銃⇒トロフィーと子供たちを縛る呪いが羅列される。さらには問題が起こるたびに両親は「兄弟で解決しろ」と責任を放棄し続ける。
成功しろ、泣くな、鍛えろ、と呪いの言葉をかけられた子供たちが自ら破滅を選ぶ姿はあまりに悲しい。
主演のザック・エフロンの演技が素晴らしい。筋骨隆々の姿でありながら常に物悲しい瞳をした主人公ケビンの姿は、父の抑圧で自分自身の悲しみすら自分の自由にできない悲哀が満ち満ちている。
そんな彼が、ついに自分の悲しみを自分のものとして掴み、家族との幸せを選べるラストには大号泣だった。

間違いなく傑作。人が人生の初期にかけられた呪いから解放される物語であり、これはプロレスだけの物語ではない。プロレスファン以外にも観てほしい。

ケビンは映画ラストでプロレスを離れるが、彼の息子たちはその後プロレスラーの道を選ぶ。数年前に、日本のプロレス団体にも出場している。本作でしかエリック家を知らない人は驚くと思う。