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デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章のLCのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

面白かった。

前章がメインディッシュを平らげたような満足感を持つとしたら、本作は食後酒まで堪能したような満足感があるような感じ。

前章では「わくわく」したけれど、後章では「ぞわぞわ」している時間が多かったように思う。
それは、色んな人がいるのと同じようにあちらも一枚岩ではないとか、お互いにお互いを知性やあたたかい感情のある生き物として認識していない描写があったりとか、どんな立場にいても結局想定したまっすぐな道は歩めないとか、そういう、それら。
お目々がチラッと覗いたりするのは、耐性なし人間としてはビクッとするものの、そのものに対する恐怖は後々まで残らない。一瞬ビビる程度。
チラッと覗くお目々より怖い存在がおる所為でもある。

ただ、それでも特定の誰かに対して過度に恐怖を覚えることがないのは、前章で丁寧に「この人はこの状況でこう感じ、こう考える」ということを見せてくれていたからだろうと思う。
世界を変える主人公も、主人公が失いたくなかった人も、彼女を失ってしまった人も、他者の痛みに寄り添おうとする人も、全てから距離を取って見物人になろうとする人も、みんなその行動理由は理解できるし、それぞれに狂気を有している。
わしが「一触即発なのかもしれないけれど、良い環境でもある」と思えたのは、飲食店で違う考え方の人たちと言葉を交わすところ。
議論は白熱するけれど、誰かの手が出る前に収める分別もみんなあった。
自分の意見もぶつけつつ、相手の意見もぶつけられつつ。でも力尽くで黙らせることはしない感じ。
いじわるなことを言ったり冷笑したりすることで相手を黙らせたい人が多い中で、まともな人も確かにいるのだと感じられた。

こちら側もあちら側も、命を散らすのは全体の多数を占める「民衆」であり、彼らは誰かの都合で簡単に捨てられてしまう存在だということが悲しい。
命を奪う者は、相手の属性に拘らなくなるということも悲しい。「自分にとって有益か否か」という判断基準では、もはや人だろうがそれ以外の何者であろうが関係ないし、手段も選ばない。
自分で考えて、自分の言葉で語った途端にポイ捨てされるのも悲しい。そのような言葉より、紙の上に踊る無機質な文字の方が地位が高い。
どっちの味方もせず、ということは、どっちの敵にもならないようにすることで、結局最も捨てやすい駒となるのも悲しい。
そして、ほんの小さな分岐で生死がわかれてしまうことが、悲しい。
悲しいけれど、どれも決して珍しい景色じゃない。

どんなに世界が軋もうと、不器用にドキドキしたり、何でもない言葉を交わして笑ったり、真面目になったりふざけたり、そんな日々を、変わらずに紡いでいく。
変わらずに紡いでいく為に、血を流すことも、あるのだよね。
どんなに失っても、まだ失っていないものたちと共に、進んでいくしかない。
笑える時は素直に笑って、くそやばい世界を生きていく。
失いたくない者たちと。
誰かが血を流して守ってくれた日々の中で。
生きろと送り出してくれた人を思い出に。

今作も印象的なシャツがちょこちょこ出てくる。
個人的には、シュコーって音を立てながら「 I am your mother 」と言い出しそうな一品が好き。
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