ずどこんちょ

デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章のずどこんちょのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

驚いた。
でも同時に、「来たるべき日が来た」だけなのだと知りました。

ある日、東京上空に「母艦」と呼ばれる巨大な未確認飛行物体が停留することとなった"非日常"の中の"日常"を描いた前章に続き、後章です。
原作とは異なるエンディングとなっているとのことで、劇場版でしか見られないラストが楽しめます。

前章ではおんたんと門出の出会いとなった小学校時代のエピソードが語られており、そこでは門出が暴走してしまい、取り仕返しのつかない悲劇が生まれるところが描かれていました。
それは今現在のおんたんと門出の時間軸にはどう考えても繋がらない過去の記憶であり、謎に包まれたまま前章は幕を閉じます。

後章ではその辺りの理由と、そしていよいよ母艦から降り立ち、地上で姿が見られるようになった侵略者たちの視点に立ったストーリーが展開されていきます。
そのどちらの鍵も握るのが、前章の後半に突如として現れた大葉くんです。アイドルグループのメンバーの姿形をしている彼ですが、その中身は侵略者。8.31の事故に巻き込まれて亡くなっていた大葉くんの体を借りて侵略者が生き延びていたのです。
そんな大葉くんと出会ったおんたんたちは、彼を侵略者だと知った上で匿い、行動を共にします。
侵略者にとって人類は知能が低い存在で、武力を持って侵略者の殺戮を繰り返す脅威の存在でした。しかし、おんたんたちと出会った大葉くんは、人間は時として優しい者もいることを再認識します。

侵略者たちは人類より遥かに素晴らしい科学技術を持っています。
その技術によっておんたんの過去の記憶を覗いた大葉くんは、彼女がかつて門出を失い、その当時地球に訪れていた調査員の侵略者の導きにより、時間軸を超えてきた存在であることを知るのです。
つまり、おんたんはパラレルワールドからやって来た存在だということでしょうか。

ですが、それは門出という一人の少女を救うことの代償に、世界を破滅へと導く可能性のある旅でした。おんたんがそうまでして並行世界を超えることを望んでいたのは、門出を救いたいという一心に過ぎなかったのです。
門出のためなら、たとえ世界を犠牲にしても良い。その決心があったから、おんたんはそれ以来、門出にとっての「絶対」であり続けました。
前の世界での記憶は失われていましたが、どんな時も門出のそばを離れず、彼女の全てを支え続けてきたのです。絶対的な親友です。
もう二度と、門出を失わないように……。

上空に母艦があるという状況が"日常"になっていた世界で平凡な日々を繰り返していた人々でしたが、その"終わり"は突如としてやってきます。
母艦のエネルギーが暴発し、母艦は制御不能となって大爆発を起こしてしまうのです。
それ以前に、世界中では侵略者より更に高次元の存在によって、触れたものを爆発させる発光するシャボン玉のような物質が降り注いでいました。
世界中の人類はこの物質によって絶滅の危機に瀕していたのです。

大葉くんは母艦の爆発から人類を守るため活躍するのですが、過激派の侵略者駆逐信者と化した小比類巻がそれを阻止しようとします。
小比類巻の追手を振り切った大葉くんでしたが、残念ながら既に手遅れでした。母艦は制御不能となり、大爆発を起こすのです。
不幸中の幸いは、母艦の爆発の影響で死の光の効力が奪われ、世界滅亡は免れたということ。東京という一都市を犠牲にして、世界は救われたのです。

巨大な閃光によって人々は"日常"を続けたまま消し飛び、キノコ雲が登り、東京壊滅という歴史的な悲劇がもたらされました。
おんたんの兄ひろしや、渡良瀬らすべての人々が閃光に包まれて消滅します。
しかしその危機は、母艦が上空に現れたあの日から分かっていたことだったのではないでしょうか。
政府がいくら嘘の情報で国民に混乱をもたらさないように発信しても、若者たちはそれぞれの立場で異変に気付いています。侵略者を駆逐する立場の者、殺戮される侵略者を守ろうとする者。それぞれが異変を異変として捉えていたのです。
実際、侵略者の登場によって世界が歪んでいたように見えますが、実はもともと世界は歪んでいたことが本作の若者たちの閉塞感に繋がっています。
破壊や暴力によって閉塞感を打破し新世界を作り出そうとする者、あくまでも平和的解決を望む理想主義者。それは現代にも通じる若者たちの不満や主張なのです。

閉塞感に包まれていた長い長い時間が再び動き出し、東京という街はリセットされました。
おんたんと門出はその爆煙を見ても涙一つ流しません。むしろそこに一抹の清々しさすら感じているかのようです。
二人もまた、この社会に複雑な重たさを感じていました。特に門出の周囲は複雑でした。A線を気にし過ぎている神経過敏な母親、行方不明となった父、好意を寄せていると知っているのに一線を越えようとも拒絶しようともせずにはぐらかす教師。
おんたんも門出のそんな複雑な生き方を見て、そして社会に蔓延る若者たちの不安定な要素を見て、陰鬱な気持ちを抱えていました。飲み会の席で侵略者排除派と擁護派が口論となった時、酔っ払ったおんたんは面倒くさいと一喝していました。彼女は何派であるとかいうくだらないカテゴリーに捉われる若者たちに辟易していたに違いありません。
その全てが一切合切リセットされたのです。

大葉くんが侵略者であったとしても、好きになってしまうような女の子です。たとえ人間であっても、侵略者であっても、おんたんは自分が守りたいものを守るのです。
なぜなら彼女は、前の世界からこちらの世界へとやり直した時、兄ひろしから「自分の道を生きろ」と教え込まれていたから。
たとえ東京が壊滅しても、門出が生きている。
そして、大葉くんもまた数日後に傷つきながらも戻って来ました。
それだけで十分。それだけで幸せなのです。キホの時のように、もう誰も失いたくないと強く願っていたから。

あのちゃんと幾田りらの声優っぷりが素晴らしいのは前章でも見ていたので言わずもがなですが、後章では特におんたんと大葉くんの恋模様も進展があり、おんたんが女の子として普通に恋をしてしまっています。
早口で世間に対する不満や僻み嫉妬を並び立てていた前章のイメージとはまるで変わり、後章では更に可愛さを増しています。「好きーーー!」と叫ぶおんたんが可愛らしい。そんな変化もまたあのちゃんの演技に表れていて素晴らしかったです。

また、前章ではメロディだけだったでんぱ組.incの「あした地球が粉々になっても」が、後章ではしっかり歌と一緒に流れます。それも世界が粉々になる絶妙なシーンで。これもまた印象的な演出でした。

後章が終わって改めて気付くのは、おんたんは世界を救うとか、侵略者を救うとか一切立ち回っていないのです。
彼女が守りたかったのは親友の門出ただ一人。門出のためなら世界を捨てて、時間を改変するのに、母艦の危機には一切動き出しません。
いわば、彼女は門出を救ってからずっと、彼女との平凡な"日常"を続けたかったわけです。
たとえ侵略者が地上で駆逐されていようとも、たとえ母艦から中型飛行物体が現れようとも、たとえ母艦のエネルギーが制御不能となろうとも、彼女は"日常"を続けることを第一に考えていました。
侵略者が落とした不思議な器具に興奮したり、いつも学校の屋上で母艦を見上げていたり、一見するとこの"非日常"を直視しようとしているように見えましたが、彼女はいつも本当は門出との"日常"を何より重視していたのです。
世界がどのような混乱に陥ろうとも、いつも目の前にある"日常"を信じ、我が道を生きるおんたんの強さを感じました。