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ビニールハウスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ビニールハウス(2022年製作の映画)
3.6
 予告編ではホン・サンス映画を配給するミモザ・フィルムスの「半地下はまだマシ」というコピーライトが盛んに喧伝されるものの、マジレスするとビニールハウス在住はポン・ジュノの『パラサイト 半地下の家族』における半地下よりはまだマシじゃないだろうか?カーセックスする輩が集まる田んぼばかりの場所だが、地上なので携帯の電波は入るし、何より洪水に襲われることもない。ラブホの素泊まりよりもステイだから数千円しかかからないはずだが、その値段すら支払えない最下層の人々の集まりなのはわかるのだが、タイトルそのものがビニールハウスなのだが、何やら日本のビニールハウスとは少々違う意匠にまずは面食らう。韓国の土地所有者の管理システムがまったくわからないので断言は出来ないが、内壁に断熱材を施したビニールハウスの暮らしは窓はないが決して悪くなく、冒頭に訴える「半地下はまだマシ」というコピーライトそのものが今作の中では成立していない。ムンジョン(キム・ソヒョン)は刑務所暮らしの息子と2人で暮らす新居までの資金を稼ぐため、盲目の老人テガン(ヤン・ジェソン)と、その妻で重い認知症を患うファオクの訪問介護士として働いている。

 前半のシリアスな展開には気を衒わぬようなイ・ソルヒの手腕を感じたものの、中盤以降の物語の帰結に関しては違和感ありありで、シリアスなスタンスからどうしてこのような市原悦子の『家政婦は見た』そのものの展開に陥ったのかはさっぱりわからない。主人公をブルジョワジーに従属すべき人間として描くのであれば、偶然の故意による過失に主人公を陥れるプロットそのものが悪手そのもので、やっちまったな~というクールポコのような感慨しか生まれない。前半は介護問題の未来を見据えた建設的な作品であるように見えて、後半はただ単にどんでん返しの裏を掻くような展開に終始し、これは恐らく『パラサイト 半地下の家族』を意識したというよりも女は奴隷的な儒教的な精神に満ちたキム・ギヨンの『下女』ではないかと。中盤、自分が犯した過失を素直に申告すれば良いものを、どうにか取り繕うとする主人公の心情にはどうしても乗れず、それ以降の展開は完全に蛇足で、韓国のマイホーム幻想地獄という意味では、『奈落のマイホーム』の方が説得力はあった。
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