オレオレ

陪審員2番のオレオレのレビュー・感想・評価

陪審員2番(2024年製作の映画)
4.5
こういう作品作るから、イーストウッドを嫌いになれないんだよなあ、「クライマッチョ」とか「運び屋」なんかを見た後でも。

ジャスティン(N.ホルト)は妊娠後期の妻を持ち、ジョージア州に住むライター。
そんな彼が、ジェイムスという男がガールフレンドを殺した疑いで裁かれるなかなかの事件の陪審員に選ばれる、「陪審員#2」として。
殺人そのものを否定して争うジェイムスの弁護士は熱い公選弁護人(C.メッシーナ)で、対する検察側は、州検察トップの座を選挙で勝ち取ろうとしているフェイス(T.コレット)。
法廷で、事件がフラッシュバックで再現される中、ジャスティンはあることに気づく・・・まったく同じ時、自分が車ではねたと思っていたのは、鹿ではなくこの事件の被害者ではないのか・・・?

とまあストーリーは割と単純なんだが、細かい設定が効いている。
まず、ジャスティンはアル中から、ジェイムスもギャングという後ろ暗い過去から這い上がった境遇だということ。つまりは、自分ではリカバリーした、またはリカバリー中の新しい人間だと思っていても世間はそうは思わない。バーに行きながら酒を見ただけで飲まなかった、ガールフレンドに激高しても暴力を加えなかった、と言っても、元アル中の、元ギャングの自分たちを世間は信用しない。
また、ジャスティンの妻は妊娠後期という設定だが、この妊娠も複数回の流産や死産を乗り越えた後のやっとの妊娠、待望の第一子であり、ジャスティン夫婦にとっては何事にも代えがたい守るべきものだという事。
そして、担当検事のT.コレットにとって、この裁判は検事局トップ選挙前に絶対に落とせない事件であるが、果たして、自分の名前であるフェイス(「信念・信条」といった意味)通りに行動しているか?という疑問も湧いてくる。

12人の陪審員全員が一致しなければならない陪審員裁判。
元ギャングが起こしたガールフレンド殺害事件、ということで有罪にほぼ傾いた12人だが、そこから、「beyond reasonable doubt(合理的な疑いを超える)」な有罪であるかを見ていくことになる。
といっても、陪審員間の駆け引きはあまりなく、ジャスティンの葛藤が、元刑事の陪審員(J.K.シモンズ)や彼が独自に見つけた手掛かり(こんなことを陪審員がやってはいけないので、陪審員から外される)、それに触れたフェイス、と併せて語られる。

いやー、最後まで、自分犯人説に傾いていくジャスティンから目が離せない。どうするどうする?自分だったらどうする?保身のため、無罪の人間を有罪にする?自分の罪を告白、家族を捨てて刑事事件被告人になる?
盛り上げておいて、いざ、陪審員の出した決断シーンはあっさり。え?盛り上がるとこじゃないの、ここ、と思わせて、その続きがもっと盛り上がる(というか、ムムム、な感じ)。
あの、ドアを開けた後のジャスティンが何を言うのか・・・
好き嫌いのありそうなエンディングだが、あーやっぱりイーストウッド!という印象だった。
N.ホルトの、まだ若い悩める青年と大人の中間、みたいな演出と演技もなかなかぐっとくる。

ちなみに、殺されるいわゆるチョイ役の女優はイーストウッドの娘。
自分の娘を惨殺してしまうイーストウッド・・・ついこの間、自分の娘をポップスターにして歌わせまくるというシャマランを見ただけに器の違いを見た!