Aya

苦悩のリストのAyaのレビュー・感想・評価

苦悩のリスト(2023年製作の映画)
3.5
#twcn

思わず目を背けたくなるシーンのオンパレード。

特に冒頭の飛行機のシーンは凄い。
国から脱出するために外国の飛行機の外側(羽やエンジンの部分)に無理やり乗り込むってかしがみつく人々。
振り落とされるに決まってるのに…

それをモロ映してるのでショッキングでした。
(※人と確認できるほどの大きさではないです)

YouTubeで探したのですが日本語・英語どちらでも検索したのですが、予告編が見つからなかった。
で、Twitterの公式アカウントで見れました!
@makhmalbaf_doc

2021年、タリバンに征服されたアフガニスタンの首都カブール。

テロに支配された国ををなんとか脱出しようとする人々が空港へ押し寄せる。
ほとんどの人が荷物を持っていない。

ひと足先に国を脱出した今作の映画監督ハナ・マフマルバフがアフガンに残る文化人(映画監督、俳優、作家etc...)を救うためフランス政府やアメリカ軍と交渉し、都度、飛行機への搭乗を誘導するドキュメンタリー。

SNSでやり取りをしながら、スマホとPCを駆使して奮闘する。

第一関門は空港に到着すること。
空港の下水路は脱国を目指す人々で溢れかえり、片方からはアメリカ軍の、もう片方からはタリバンの砲撃、銃撃を受けながら軍人へアピールする。

アフガン文化人脱国のためにロンドンからやり取りするマフマルバフ。

マクロン🇫🇷大統領やエマニュエル夫人に直談判しバイデン🇺🇸大統領へもコンタクトを取ろうとする。
マクロンがこんな政策してるの全然知らんかった。

目指すは800名の文化人とその家族の脱国。
すでに脱国しているのは200名。
残り600名を救おうとする。

多分、皆さん疑問に思うと思うのですが、文化人のみに絞ったのは

・タリバンからの攻撃が文化人へ集中するため
・それ以上の人を救うのがすでに困難であるため
・そしてこの出来事をメディアや後世に語り継ぐため

この3点かな?と思いました。

つまりこの文化人800名に絞るためにもリストがあったはずだ。
さらにこの800名すら難しいと🇫🇷軍からは通達され、この800名からさらに絞らなければならない。

誰を生かし誰を見殺しにするか?

当然、どんな人も公平に生きる権利がある。
マフマルバフも全員を助けたかったはず。
しかし現実的ではなく絞らざるを得なかった。

🇫🇷軍からは1日に20名しか飛行機に乗れない、その20名をリストアップして送れ、と言われる。

毎日、さらなる人選をしなければならない。

誰を生かし誰を見殺しにするか。

一介の映画監督であるマフマルバフのする決断ではない。
他人の生死を決めるのは人間ではない。
法のはずだ。

しかし、選択をしなければその20名すら救えない。それはつまり残された600名全員の生存が見込めないということ。

頭を抱えながら紙に手書きで名前を書いてゆく映画監督。
その苦悩は計り知れない。

現に映画内でも多くの人が暴力を受け、爆撃や爆発テロにあい血だらけになり、命を落としてゆく。

時折登場するマフマルバフの幼い孫がめっちゃ可愛い。
思い詰めるような表情しか見せない大人たちと違い、無邪気にニコニコと遊んでいる。

この子が可愛ければ可愛いほど、同じ子どもなのに、ロンドンでニコニコしている子どもとアフガンで明日をも知れぬ大変な思いをしている子どもとの対比描写である。

どちらも同じ子どもでどちらも守られるべき存在であることは変わりない。

本来なら皆を救いたかったと思う。
でも出来ない。

なら…というタイトル通り、苦悩に苦悩を重ねた20名のリストだったろう。

人の命を救うのは簡単ではない。
ただテロリズムや戦争によって助けられないのはおかしい。

劇中に空港で起こった爆発テロに涙するマフマルバフ。
被害者は170名。
年末の韓国旅客機事故を彷彿とさせる数字だ。

本当に目を背けるシーンの数々に何度も目を逸らし、覚悟を決めてスクリーンを見る、の繰り返し。

2051年、わたしはこの時なにをしていたか?
このニュース、もしくは報道されない部分も自身で関心を持って調べたりしていたか?

いや、していない。

今もタリバンの侵略は続き、ウクライナは爆撃され、パレスチナも攻撃を受けている。

多くの人が毎日、理不尽な攻撃を受け、怪我をし、命を落としている。

自然災害は多いが、戦争もテロもあまりない日本の映画館でわたしは一体なにを見ているのか?

スクリーンか?
現場のリアルな映像か?

今、なにをしているのか?

考えさせられる映画でしたが、画面に映る人々の境遇があまりにも辛すぎるため、正直観る人を選ぶ映画やと思った。

皆がスマートフォンa.k.aカメラを持ち、映像を収めSNSで発信できる。

情報には国境も時差もカーストもない。
そしてモザイクもない。

良いことも悪いこともそのまま目にすることが出来る。
既存メディアよりもはるかにリアルなアフガニスタンの実情。

明日、明後日、これからの日々、日本で日常を送るわたしはこれらの情報だけを得るのか?

なんのために?
なにができるか?
なにもしないのか?

目を逸らすことは簡単で、自分の日常生活から排除することも簡単だ。
外国のテロや戦争は知らなければ傷つくこともない。

しかし、わたしは"知らなかったから"と後悔するのは性に合わない。

同じ地球のどこかで起こっていることは、わたしの世界に起こっていること。
微力でもなにか、出来ることを探し、出来ることを行動に移そう。

と言いつつ『この世には見えない方がいいものの方が多い』と頑なに眼鏡をかけないわたし…矛盾の塊ですすみませんはい。


日本語字幕:敦賀 恵美
Aya

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