二瓶ちゃん

異人たちの二瓶ちゃんのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
4.3
気になって鑑賞。

SEARCHLIGHT PICTURES TSG ENTERTAINMENT FILM4

【普遍的かつ現代的】

一切過去作を知らない、原作を知らないものとしては、深みもあり純粋に良い映画体験だった。邦画「エゴイスト」のラブシーンみたいに、この映画のラブシーンももっとシームレスに、かつどんな性自認の観客でも刺さるように、撮れなかったのかとか細かいモヤモヤはありましたが、タイトルも、登場人物が少なくとても含みを帯びた物語にも脱帽しました。

実在する存在か、という議論を一旦放置して、登場人物各々の心がほどけていく姿には胸が熱くなりました。特にハリーとクラブに行ってからの流れは。

ブライアン・イーノかよってぐらいぽやーっとした音楽多めなので、よく眠ってから見てください。レコードをベースにいい感じの音楽がかかっていました。知っているのはFrankie goes to Hollywood ぐらいしかないけどそう言えばこの人たちはゲイのユニットだったような気が。

行きつけば自由主義の功罪とか個人主義みたいな感じにはなるんだけど、中年の孤独という現代的なテーマに、家族という誰しもが思い入れある普遍的なテーマ。この映画は性的少数者の映画、ひいてはゲイ映画という枠から大きくはみ出して私たちに語りかけてくる。

ちょっとマザコンっぽかったな、再会のベッドシーン。でも息子ってこんなものなのか。ベッドでのシーンも酒屋で会うシーンも、ハリーと父親を重ね合わせる演出は良かったかも。

これイギリスの話だからこうなってるけど、日本で「パートナーいるの?」って言ったら自分が相手が性的マイノリティだって遠回しに伝えてることに思われちゃうかもな、現状。

ここまでくると個人の問題になってくるけど、子供の頃を思い出す、ディズニーではない場所として、Vaporwave信者が脳内に描いていそうなショッピングセンター出してくるのはたまらなく響いた。

ほんとに最後のシーンで感じていたけど、現代って隣人愛的な意味で、他人が怖いっていう時代なのかな。そのテーマって「コンパートメントNo.6」とも重なるなぁ。自分っていうものの線が太くなって、他人との溝っていうものが深くなってしまってる時代なのかな。

帰りたまたま会った人に勧められたので大林宣彦版もまた見る(その人曰く大林の作家性は嫌いだけど好きな作品らしい)

タイトルが見事、ということでこの評価。

星。