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異人たちのエスのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
5.0
とてつもなくパーソナル。色んな箇所でぶっ刺さってしまい、それを言語化出来るわけでもなく、ただただ今作が自分の中で大切な一作となっていくのを感じる。

”古傷という呪縛に縛られすぎないで”という願いが込められた一作なんだけど、一筋縄では生きられない現代がもたらした孤独の原因の断定の難しさ、色んな問題が絡まり、それらが一気にその人を苦しめていて、一言には言い表せず、理解してもらえると思えなくなり、自ら幸せから遠のき、社会から孤立していく、目に見えぬ足枷が重たく、置いてけぼりにされる人の描きが物凄く繊細でお上手で。それは同性愛者だからではない、親を失った/仲が悪いからではない、いや、どうなんだろう、といった本当にパーソナルな胸の内にある孤独をシェアして貰っている気分でした。

それもそのはず、”自分の感情や人生をなるべく個人的かつ正直に語ることができれば、観客もそれぞれの人生をこの物語に投影できるのではないかと思ったのです。「私が自分の人生を語ったら、あなたも自分の人生について語ってくれるでしよう?」というように。”だなんて語るアンドリューヘイ監督。もう本当にどタイプで、今作を作り上げてくれてありがとうという感じ。なんでも今作に出てくる両親の家は、実際に監督が幼少時代を過ごした家なんだとか。

今作で描かれる”愛”の概念。本当の自分を両親に理解してもらってこそ受け取ることの出来る愛情、仲直り、やり直し、関係の修復の美しさや失うかもしれない時の怖さ、そして一度傷ついてしまった人間がまた傷つくのを恐れるが故、愛を認めるまでの躊躇もリアルだなと思ったし、 愛がしっかりと芽生えてるからこそ大丈夫じゃないことを共有出来る関係、”It's okay, I'm here.”に込められている愛の深さも自分の価値観と一致していた。

結末はなかなかきついものではあったけど、個人的に、あの時受け入れてれば、こういう未来があったかもって提示してるわけで、手を伸ばすこと、愛を受け入れることの重要さを説いてくれているという解釈に辿り着きました。

こころにどでかい穴が空いてることを普遍としてくれて、それが埋まらないのは自分だけじゃないと描いてくれるのも大いに救われたところだと思う。

大好きなアンドリュースコットとポールメスカルという時点で期待値が爆上がりだった今作はやっぱり最高で、音楽たちも最高。予告で使われていた”Always On My Mind”の使い方だけでもうこの映画はずば抜けた輝きを放っていました。今後たくさん聴きます。途中のアダムとハリーのちょっとした会話の中に出てきたゲイとクィアの概念の違いも分かりすぎていました。本当にありがとう。
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