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クイズ・レディーの秀ポンのレビュー・感想・評価

クイズ・レディー(2023年製作の映画)
2.9
友人におすすめされて見た。
クイズというよりは、疎遠だった姉妹の絆に重心の乗った映画だったんだけど、クイズ番組について考えるいいきっかけになった。

──クイズの3形態。

まず、クイズ番組は2種類に分けられる。
視聴者にも解ける番組と、視聴者には解けない(解かせようとしていない)番組だ。
この2つは並列の関係ではなくて、解ける番組の発展型として解けない番組が出て来た。(発展型の方が優れてるって訳じゃなくて、解ける番組の存在を前提としたメタバージョンみたいな意味)
そしてこの映画では、解けない番組の更に発展型をやっている。今からそれぞれの形態を見ていく。

1.解ける番組
これが1番基本のパターン。
クイズ番組が人気なのは、クイズは見ることとやることの間に差が殆どないからだろう。見ながら勝手に答えれば自分も参加していることになる。
これが発展することで解けないクイズ番組が生まれた。

2.解けない番組
この形態では、視聴者はクイズに参加しない。むしろそのクイズには、視聴者が参加できないほどの高難易度であることが求められる。
視聴者は、激ムズな問題を答える解答者の凄さを楽しむ。
そこには余人には理解不能な応酬が出題者と解答者の間で繰り広げられていることの面白さがある。

3.この映画。(解けないのに分かるクイズ)
そしてこの映画の、最終戦で主人公達が行うジェスチャークイズは、解けないクイズ番組を更に発展させたものだ。
ジェスチャークイズとは、2人1組になって、1人が相方にお題をジェスチャーだけで伝えて答えさせるという形式のもの。
ここで、ジェスチャーをする側は実質的に出題者の役割を担っている。
主人公達姉妹は、ここで自分達の私的な思い出を媒介にしてジェスチャーを伝えていた。
これは私的な思い出であるため、余人には理解不能なものである。しかし視聴者は2人の思い出を見て来ている。
つまり、余人には理解不能なはずの出題者と解答者の間の応酬が視聴者にだけは理解できている。ここにエモさが生まれる。

この3段進化の中で、クイズ番組の楽しみ方は
1.クイズを楽しむ

2.凄さを楽しむ

3.エモさを楽しむ
というように変化している。
これが唯一の発展経路とは思わないけど、コンテンツがハイコンテクスト化していった結果エモさに行き着くってのはいろんな分野であることだよなと思った。お笑いとかスポーツとか。

高次になるにつれて抽象化も進んでいくので、実質的には題材がクイズである必要もなくなってくる。
というわけでこの経路図は、「今作がクイズにあまり重心を置いているように思えなかった」という感想の裏付けにもなっている。

──映画の感想。

一応映画の感想も書くと、普通くらいだった。
良かった点として、自室でクイズ番組を見て答えまくる主人公が、なんか現実にも居そうな感じで良かった。
あと酷い母親が結局最後まで関わってこないのが良かった。和解して終わりではなく、決別するとかですらなく、姉妹2人の人生からドラマ性無しに締め出されている。「酷い親と劇的に向き合う必要なんてない」というように、親との対峙が描かれないことでより強く思想を感じた。
(もしくは、酷い親とは距離を置くことが取り立てて扱うまでもないスタンダードになった感?)

でも演出にあんまりピンと来るところがなかったので、めっちゃ面白い!とかにはならなかった。

人に薦めたくなる気持ちも分かるし、クイズについて考える良い機会にもなったので良かった。

──自分にとってのクイズ。

現状での自分のクイズ観も残しておく。
クイズ番組を見るのはそこまで好きじゃないけど、部室で突発的に発生していたクイズ大会とかは楽しかった。
自分で答えるだけでなく、知り合いが「このエピソードで怪盗キッドの盗んだ宝石は何?」みたいな意味不明な問題を答えまくってるのを見るのも面白い。これは、クイズ番組の進化の第2段階に該当しそうだけど、単に「凄いのを見るのが楽しい」というよりは「知り合いが急にクイズで無双しまくるのが楽しい」というように、"知り合いが"の方に重心が乗っている。
総じて、クイズ自体の楽しさがどこにあるのかはよく分からないけど、コミュニケーションツールとしてのクイズは好き、みたいな感じだ。

──その他、細かな感想。

・司会が毎回違う蝶ネクタイをするので、毎週番組を見ていた主人公にとってはネクタイの飾られた壁が自分の人生の索引として機能するのが面白い。

・クイズ番組を見ていて司会に憧れることなんてあるのか?と思ったりする。熱心に見てたらそうなったりすんのかな。

・チャントによって場のルールを書き換えるシーンが良かった。
クイズ番組は試合である以上にショーであり、盛り上げたやつの勝ち、みたいなのが良い。
結局図太いやつが強いよなってのも思う。

・クイズ番組の第3段階に到達したのがクイズ・レディーだけとは思えないので、もしかしたらquizknockとかも「人生クイズ」みたいな感じのエモクイズ企画をやってたりするかもしれない。

・友人にこの感想文を送るのはなんかズレてる気がして来た。
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