カタパルトスープレックス

華岡青洲の妻のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

華岡青洲の妻(1967年製作の映画)
3.8
歌舞伎の演目にもなっている有吉佐和子原作の小説『華岡青洲の妻』の増村保造監督による映画化作品です。高峰秀子と若尾文子。銀幕を彩った新旧ミューズによる嫁姑の争いが怖いよし!!!そして、紀州和歌山の方言が耳について離れないよし!

『映画監督増村保造の世界』によれば、本作で描こうとしたのは男のエゴだそうです。社会など世間の空気を読む日本の風潮ではなく、西洋的なエゴ丸出しの個人の強さを描こうとした増村保造監督らしいテーマです。

そのエゴ丸出しの男である華岡青洲を演じるのが市川雷蔵です。しかし、監督の意図とは全く違う方向に映画は仕上がってしまいます。高峰秀子(姑:当時43歳)と若尾文子(嫁:当時34歳)の静かな争いが凄すぎるのです。口ではお互いに褒めあって、足で蹴り合う感じ。もう、これがめっちゃ怖いわけですよ。みんなが愛してやまない「デコちゃん」と「あやや」はどこにいっちゃったの?!それに比べて市川雷蔵はほぼ空気のような存在感のなさ!市川雷蔵は特に怖くないよし!!!むしろ、父親役の伊藤雄之助の方がエゴ丸出しで増村保造の世界には合ってたかも。

高峰秀子は成瀬巳喜男監督作品『乱れる』(1964年)、若尾文子は増村保造監督作品『卍』(1964年)の3年後なので、まだまだ年老いた役が似合うはずもないのに。ちゃんとそう見えちゃうのがスゴイですよね。

高峰秀子や若尾文子のようなスゴイ女優が暴走すると、増村保造ほどの監督でも描こうと思っていたテーマも描けなくなってしまう。スゴイなあ。