このレビューはネタバレを含みます
2023新作_116
君には、この"暴力"が見えているか?
【簡単なあらすじ】
風間彩人は、亡くなった父の借金を返済し、難病を患う母、麻美の介護をしながら、昼は工事現場、夜は両親が開いたカラオケバーで働いている。彩人の弟・壮平も同居し、同じく、借金返済と介護を担いながら、父の背を追って始めた総合格闘技の選手として日々練習に明け暮れている。息の詰まるような生活に蝕まれながらも、彩人は恋人の日向との小さな幸せを掴みたいと考えている。しかし、彩人の親友の大和の結婚を祝う、つつましくも幸せな宴会の夜、彼らのささやかな日常は、思いもよらない暴力によって奪われてしまう――
【ここがいいね!】
現代社会の暗部を陰鬱かつ淡々と描き出した衝撃作でした。
風間彩人と弟の壮平を中心とした物語は、理不尽な現実に飲み込まれまいともがく人々の姿を鮮烈に映し出していきます。
『52Hzのクジラたち』(2024)のように、社会の隙間に落ちていく人々を描く作品が増えていますが、本作はその系譜を踏まえながらも、より一層深いところで人間の尊厳について問いかけてくる意欲作となっています。
特にヤングケアラーとして苦悩する綾人の姿は、現代社会が抱える根本的な課題を浮き彫りにしていました。
警察官だった父親の遺した借金と認知症を発症した母親という二重の重圧は、まさに現代の若者たちが直面する社会問題を象徴しているようでした。
「あらゆる暴力から自分の範囲を守る」という作中のセリフは、単なる物理的な暴力だけでなく、社会システムそのものが内包する構造的な暴力をも示唆する重層的な意味を持っていいるように感じます。
【ここがう~ん……(私の勉強不足)】
作品内で描かれる状況は確かに切迫したものですが、認知症を発症した母親への福祉的なアプローチについては、もう少し掘り下げる余地があったように思います。
現代の日本では、介護保険制度やさまざまな福祉サービスが存在するはずですが、それらがなぜ機能していないのか、あるいはアクセスできない状況にあるのかについての描写がもう少しあれば、より立体的な社会派ドラマとして成立したのではないでしょうか。
看護師として働く日向の存在を通じて、医療や福祉との接点をより深く描くことで、解決の糸口や希望をわずかでも示唆できたように思います。
また、滝藤賢一さん演じる警察組織の描写については、やや図式的な印象を受けました。
確かに組織の非情さを描く上では効果的だったかもしれませんが、より複雑な人間模様や組織の内部矛盾なども描き込むことで、さらなる深みが生まれたのではないかと思います。
【ざっくり感想】
見ていて心が締め付けられる思いでしたが、これこそが現代日本の切実な現実を映し出した力作であることの証なのかもしれません。
作品中、突如として銃撃のシーンが2度登場しますが、これは単なる物理的な暴力の表現を超えて、現代社会に生きる若者たちが直面する理不尽さの比喩として見事に機能していました。
日々の生活そのものが暴力となっていく現実を、決して大げさな演出に頼ることなく、静かに、しかし確実に描き出していく手腕は見事だったと思います。