MasaichiYaguchi

恋恋風塵(れんれんふうじん)のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

4.0
本作の脚本担当ウー・ニエンジェンの体験を元に、1960年代終わりの台湾を舞台に10代の男女の淡い恋心を軸に、その青春を瑞々しいタッチで描いたホウ・シャオシェン監督の本作を観ていると、日本映画の全盛期、貧しいながら明日を信じて生きる若者達を活写した青春物を彷彿させて懐かしい気分になる。
本作の主な舞台は主人公達の故郷の山村と台北の市街の2ヶ所で、この故郷は「非情城市」でも舞台となった九份がロケ地になっている。
主人公ワンは中学卒業と共に台北へ出て、夜間学校に通いながら印刷所で働き、1歳下のヒロイン・ホンも1年遅れで台北に出て、洋裁店に勤め始める。
日本でも1950年代後半から1960年代末まで、中学を卒業した若者達が田舎から上京して様々な職業に就くという集団就職が盛んだったが、国は違えどほぼ同時期に台湾でも同様な若者達がいたことに親近感を覚えてしまう。
とはいえ10代の若者が大人に混じって働くというのは、職業意識を含めて技術も未熟な彼らでは色々と大変だと思う。
ホンもしくじるが、諸々不器用なワンは見ていて“痛い”ような失敗が多いと思う。
そんなワンをホンは気使い、癒しの存在となり、やがて幼馴染みというより恋愛対象へと変わっていく。
このホン役のシン・シューフェンが何とも初々しくて清楚な感じで、一昔前の邦画の清純女優の趣がある。
ただ初恋はすんなり行かないもので、ワンに兵役の召集が来てしまう。
私は本作を観て初めて、韓国と同様に台湾にも「兵役の義務」があることを知った。
果たして、この“義務”が2人に何をもたらすのか?
日本では今でも「空気を読む」なんて言うことが喧伝されているが、やはり気持ちは「以心伝心」ではなく、はっきり言葉で伝えなければ相手にしっかり届かない。
恐らく初恋の経験のある人ならば、本作で描かれた2人の顛末に関して甘酸っぱくもほろ苦い思いを抱くような気がする。