螢

勝手にしやがれの螢のレビュー・感想・評価

勝手にしやがれ(1960年製作の映画)
3.8
なんて大胆で、それでいて、センスとまとまりのよい、独自色に満ちた映画!

「ジャンプ・カット」と呼ばれた展開上の整合性や統合性を無視して次々切り替わっていく独特の編集や、手持ちカメラ使用によって不安定に揺れ動くシーンなどが、若い恋人たちの場当たり的で軽薄な行為の積み重ねと訪れる破滅にうまくマッチした、ジャン=リュック・ゴダール監督による初の長編作品。
映画の既成文法をひっくり返した、ヌーベルバーグの記念碑としても名高い作品です。

ストーリー展開以上に、そのあまりに大胆な編集技法にびっくりしつつも、最初から最後まで魅入られながら見終えました。

マルセイユで自動車を盗んだミシェルは、追ってきた白バイ警官を射殺する。
そのままひたすら遠くへ逃亡するかと思いきや、パリにて、つい最近知り合ったアメリカ人の恋人パトリシアの元へ。何を思ってか、彼女のアパートのベットで寝たり、彼女の仕事の送り迎えをしたりと、無為に時間を浪費するミシェル。
しかし、警察は確実にミシェルを追っていた。パトリシアの仕事場にも警官が訪れ、彼が殺人犯となったことを、彼女も知る。
彼の逃亡に付き合う彼女。
けれど、国籍も違い、(相手の真意が理解できない、という意味に加え、アメリカ人であるパトリシアのフランス語の習熟度からくる理解の限界も少なからずあるのだけど)会話も価値観もはなから大きくすれ違っていた彼らの末路はというと…。

ミシェルの言葉の意味が理解できずに「Qu'est-ce que c'est "○○"?」と何度も訊ねるパトリシアのセリフは、恋愛関係にありながら、決してわかりあえず、わかろうともしていない二人の間に横たわる溝の象徴そのものといった感じです。

それにしても、ジャン=ポール・ベルモンド演じるミシェルはクズ男の見本そのものって感じなのに、なんでこんな魅力的なんでしょう。
もちろん、パトリシアを演じた、ベリーショートのジーン・ゼバークも、キュートで清潔感があってすごくかわいい。

独特のカメラワーク、理解しあえない男と女の象徴的な演出、俳優の魅力と、様々な魅力がそろい踏みして、融合しています。

(余談ですが、既成概念を崩すことに果敢に挑んで独自色を出しながらも、まとまりある仕上がりにしているセンスの良さと技量に、世代も分野も違いますが、19世紀後半のフランス人画家ポール・セザンヌの絵画を思い出しました。)

95分と短いので、ヌーベルバーグの記念碑と呼ばれたこの斬新な作品を、ぜひ多くの方に観ていただきたいですね。
螢