CHEBUNBUN

わたくしどもは。のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

わたくしどもは。(2023年製作の映画)
4.5
【豊穣な空間で我思う】
第36回東京国際映画祭コンペティションの日本映画枠。今年は新鋭監督を世界に広めようとする気概に溢れている。ハピネットファントム・スタジオ配給の本作は、予告編の段階から他の日本映画にないものを感じていたのだが、実際に観ると10年以内にカンヌ国際映画祭で頭角を表しそうな力強さと繊細さを兼ね備えた作品であった。

女は佐渡金山の麓で目覚める。記憶を失っており、何も思い出せない彼女は清掃員のおばちゃんに拾われる。「ミドリ」と名付けられた彼女は清掃をすることで自分が何者であったのかを思い出そうとしていた。そんなある日、猫の気配を追いかけるなかで名もなき男と出会うのであった。

道遊の割戸など、佐渡の名所をバックに豊穣な時間の中で彷徨う人々を描く。登場人物のセリフは、AIが語るように淡々としており、丁寧すぎるが故に不自然だったりする。そして中々、状況が明らかにされない状況に観客は不安を抱くであろう。実際にP&I上映では、かなりの人が途中で痺れを切らして撤収してしまっていた。人を選ぶ作品であることは間違いない。しかし、映画館という暗闇。映画を観るしか選択肢のない世界で、ミドリに覆われた豊かで謎めいた世界に溺れる体験は時間に追われる現代において至福の時だと思う。

若干、オマージュがお茶目過ぎる部分があり、例えば突然レオス・カラックスの『メルド』をやり始めたりする。そのお茶目さ込みでこの映画が好きであった。
CHEBUNBUN

CHEBUNBUN