ヴィクトリー下村

ロングショットのヴィクトリー下村のレビュー・感想・評価

ロングショット(2023年製作の映画)
4.0
東京国際映画祭4本目に観たのは中国映画『ロング・ショット』。中国の地方都市を舞台に工場の警備係として働く男の生き様を描く。

これは痺れた、傑作。
これ日本で劇場公開されるんじゃないだろうか。それくらい多くの人に受け入れられそうな作品だと思った。特に男臭い映画が好きな人ならこの作品は気に入ると思う。

監督は今作が長編デビュー作品となるガオ・ポン。なお本作は第36回東京国際映画祭にて最優秀芸術貢献賞を受賞している。

主人公は夢を失って燻っている男グー。
題材や物語こそ目新しくないしビジュアルも地味目だがどんどん引き込まれる。

物語もキャラの造形もしっかり作り込まれているから話が王道でも面白い。主人公のグーだけじゃなく脇役にも感情移入してしまう。

特に魅了されるのが悲哀に満ちた男たちの生きざま。
夢を諦めたグーもそうだが、グーの同僚たちも物悲しい。
劇中、かつて自分たちが捕まえた部下との会話は切ない。正しく生きていてもその道が幸せに繋がっているとはいえない。グーたち含め登場人物たちのほとんどが日陰の道を歩んでいる

グーに関してもそうだ。
グーは正義感が強く実直なのだが、その正しさは不況という現実の前には通じない。どうしようもない世の中で正しさを貫くことの難しさを突き付けてくる。王道なテーマだが芯にくるものがあった。

伏線にもなっている「完璧なショット」も格好良かったが個人的に最も痺れたのは「賑やかになったな」からの一連の場面。ここは観終わった後も何度も反芻するくらい痺れた。今年観た映画の中でもかなりお気に入りの場面だ。

ガオ・ポン監督、これがデビュー作というの凄い。次回作も是非観たいものだ。そして本当ここ最近の中国映画は本当に面白いということも改めて実感した。是非とも本作も劇場公開して欲しい。