ヴィクトリー下村

アイアンクローのヴィクトリー下村のレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
3.8
親が子供に夢を託すことの是非って本当はもっと語られるべきなんじゃないだろうか。

成功すれば美談だが、失敗した時は当人や家族にとって苦痛にしかなりえない。子供が親に憧れてその道を選ぶならまだしも、幼いうちから子供の将来を親が決めてしまうとうのは果たしてどうなんだろう。

本作も父親から「夢」を託された兄弟たちの努力と苦難の日々が描かれる。派手さこそないが丁寧な演出と、兄弟たちの行く末に引き込まれ132分という時間も気にならなかった。

暴君ともいえる父、フリッツの姿を通して描かれるのは家父長制の弊害。

家父長制とは要は「家庭における父親の権力の一極化」。
自分は家族や子育てはそれぞれに適した形があるため定義化はできないと思っていて、家父長制=絶対悪だとは思ってない。

ただ、息子を自分の夢を叶えるための駒としか思っていないフリッツの姿を見て思うのは、ヤバい奴には権力を与えてはいけないということ。
これは家庭だけに限らずどんな組織でも同じだろう。

エリック家の「弱音は見せず強くあれ」というマチズモな家風も彼らを追い詰めた一因として描かれる。

悲惨な結末に対し「たられば」というのは仮定でしかないが、彼らが人前でも涙を流せたら、親に頼ることができる環境だったら違う未来があったのではないか…とそう思わずにはいられない。

ケリーが死後、他の兄弟たちと再会する場面は悲しいし胸に刺さる。あの場面はケリーの死体を前にしたケヴィンの想像というか願望と捉えたのだけど(作り手の優しさだとも思う)

そうだよな、死を選んだのならその先はせめて平穏でいて欲しい願うよな、自分もそうあって欲しいと思うよ。