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ゴールド・ボーイのarchのレビュー・感想・評価

ゴールド・ボーイ(2023年製作の映画)
4.3
「きっと、あなたにも殺したい人がいる」というキャッチコピーが本当に素晴らしい。映画開始早々に、崖から突き落とされる老夫婦と殺人者である岡田将生が描写され、自殺したアキという女子中学生(観終わって思い返すと朝陽の回想の歪に響く場面だ)、直ぐに夏月の父を殺したかもしれないという告白が入ることで、「人を殺す」という行為との距離感が一気に近くなり、何か麻痺したような感覚に襲われていく。
その倫理感や常識みたいなものが麻痺していき、少年たちの夏休みという舞台設定も相まって本作の独特のドライブ感を実現している。

①殺人者の資格
「殺人」という要素がまず夏月の父親の事件によって、「血筋」と紐づけられる。また東昇の狭い島という環境で育ったことが人格形成に影響を与えたような話で、「環境」と紐づけられる。
そんな紐付けによって、何か原因があって人は殺人に至る、言い換えれば殺人を行える人間と行えない人間には明確に境界があって何か訳があるのだというような定説を打ち立てる。これが、本作の2転3転していく展開に強く作用していて、それ故に朝陽という「血筋」とか「環境」に作用されていない出自不明の「殺意」をもつ殺人者としての本性が現れてた瞬間の驚きを強めていたと思う。
またところどころ匂わせられる東昇と朝陽の関連性。名前からして太陽から連想としてるワードで共通項があるし、数学オリンピック(作中では何とか杯って言われてたけど忘れた)の入賞者である。
また東昇が語るかつての黄金時代=中学生時代をエピソードより、東昇と朝陽の対比は、殺人者の昔と今、或いは世代交代みたいなニュアンスも生まれており、興味深かった。
(最後にマーラ 交響曲5番をハミングするのも継承されているようで…)

②ひと夏の真実
演技合戦、騙し騙されの展開の中で唯一夏月と朝陽のロマンスは嘘偽りなく、一夏の恋として真実だったのが良かった。死体の額にキスする仕草にやられてしまったし、愛の告白でしかなかった真実の証明たる朝陽への手紙が、仇となってしまう皮肉もいい。その手紙には「燃やして」と書かれていて、朝陽にとっては存在して欲しくない証拠でしかないそれは果たして「夏月の願いを成就させたいのか」それとも「証拠隠滅したいのか」。どっちかと言い切れることはなく、どちらもあるのだろう。その間のグラデーションの中にある行為としてとても上手いと思った。
殺人の夏と恋の夏、夏休みの終わりと共にしっかりどちらも終着しているところに、言い表せない切なさがある。

ところどころカメラワークがドッ!と見得を切るような不自然なものがあり、引っかかりはしたが、それぐらいかな…

大傑作でした。
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