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ありふれた教室のpepeのレビュー・感想・評価

ありふれた教室(2023年製作の映画)
4.0
「良かれと思って」が裏目裏目に出て行き、事態がどんどん悪化の一途をたどっていく、その過程を教師目線で見据えるように描ききった作品でした。静かにひたひたと圧倒されていく力が備わった物語です。

ドイツの学校制度と日本の学校制度はだいぶ異なっていて、最初こそ「ありふれていない」印象があるのだけれども、物語が進むにつれ、生徒と先生の欺瞞も交えた信頼関係や学校特有の閉鎖性についてはおなじみのものとなっていったので、その違和感はだんだんとなくなっていきました。

やることなすことがうまくいかず、裏手に回ってしまう教師の心情はとても身近に感じられ、共感性羞恥に近い感情すら覚えました。これは彼女に寄り添いつづけて描きながらも、教師以外のプライベートを一切カットして彼女自身の個性をあえて切り捨て、「とある教師」という描き方に徹底したための印象なのかな、とも思いました。

内容に少し触れますが、

事件の真相については結局明らかにされはしません。ただこの映画は真相について追求する物語ではなく、あくまでそういった事件によって、どういう風に人間が掻き乱されるかについて、深く掘り下げた内容に思えたので、真実が分からないという点については、特に不満には思えはしませんでした。

ドイツの学校は人種的な多様性が当たり前であったり、生徒がとても自主的に発言したり、新聞というジャーナリズムが存在したりして、すごく自発的で進んでいるように見えているけれども、事件をきっかけに露出してくる「本性」の幼さや自分勝手さ、傲慢さにはあまりにも見覚えがあって、国境など関係なくやっぱり同じ人間なんだな、とも感じました。

この映画はラストカットがとりわけ印象的でした。すがすがしいまでの断絶、絶望、勝敗の明示であり、圧倒的な無力感に打ちのめされる思いがしました。
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