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一月の声に歓びを刻めのdecoppachiのネタバレレビュー・内容・結末

一月の声に歓びを刻め(2024年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

人と、罪を描いた作品。
3章からなる映画ですが、全ての章で物語の描き方が異なっている意欲作。
マキの心の声を、あえて幻想の中から紡ぎ出すように描かれた洞爺湖編。
打って変わって非常に映画的な展開が満ちている八丈島編。
そしてドキュメンタリーかと思うような息苦しさの中燃えるような慟哭を映し出した堂島編。
全てが欠けていて、そしてお互いに補完し合う作品。

そして全編通してそうですが、この映画は主演のお三方はもちろんのこと、脇を固める役者さんたちも素晴らしかった!
取り扱っている内容、またその描き方から賛否はあるかと思います。
特に、映画をどう楽しむかによってその賛否は大きく分かれると思います。
私は映画に出てくる人物たちの背景とかを勝手に想像できるかどうか、というのを映画を見るかなりのポイントにおいているので、そういう方はお好みかも?
以下かなり長くなりますが、私の登場人物たちへの感想です。
ご興味ある方はぜひご一読下さい。

まず洞爺湖編は
宇野祥平さん演じるみさこの夫は女の人は大事にしなきゃと口では言うくせに無意識で蔑視しているおじさんの真骨頂みたいな役でもう清々しいほどむかつきました笑
あの飄々さは宇野さんならではですねぇ。
浮気相手は誰だろう?職場の若い子?きっとみさこにバレてんだろうな、とか考えてました笑
さらちゃんのあの空気を読んで立ち回りながらも自分の要求が置いておかれると母を刺してくる感じはまさに、娘。笑
あぁ、母にこういうことした覚えあんなぁ、、私もされんのかぁ、、ってなりました笑
片岡礼子さんのみさこは、、切なかった。
彼女もまた、家族を失った1人なのに、一番それを共感したい人とできない、埋められない痛みが色んな箇所から溢れてて、これ以上マキを憎みたくない、愛していたいのにっていうみさこの悲しみが本当に辛かった。。
きっとずっと満たされない思いを誰に対しても抱えながら、諦めてるフリして、でも諦めきれないみさこがいじらしくすら思えた。

そしてマキ。
なんて不器用でな人なんでしょう…
あんなに愛情深い人なのにみさこのことだって愛してるのに、れいこへの贖罪のためだけに生きることを決めた彼女もまた責められない、と思ってしまいました。
時が止まっているわけではなく、時間と共に地べたを這いつくばるように生きてきた彼女の生き様がずっと見えて、抱きしめたくなりました。
最後の叫びのシーンはほんとにすごかった!
雪原を歩いてる時から、世界もマキの洋服も真っ白なのに、発光してるような、でもブラックホールのように吸い込まれそうな不思議な感覚でマキを見てました。
年齢をどう重ねていくか、子供とどう向き合って生きていくか、同じ親としてのことを考えてしまいました。

八丈島編は
いい意味でここが一番映画的だったように感じました!
カット割の影響だからなのか?
前後二編は長回しも多いからドキュメンタリーかと錯覚する瞬間が多々あり、すごく、息が苦しくなったり、目を伏せてしまいたくなったりしたのですが、間にこの八丈島編があったのはとても映画全体を見て私的にデカかったです。
原田龍二さんのへなちょこ感も最高でした。笑
先輩の家に入り浸って太鼓を叩く、パパ。笑
もうそれだけで家庭内のパワーバランスが見えてくる笑笑
でも、子供に名前をつけさせてもらえたところで、出てきてもない原田さんの奥さんの愛情すら感じました。笑

あの事故現場のリフレインは辛かったなぁ。。。
心に強く残ってる場所とかってああやってリフレインするよなぁと思いました。
それなのにあそこで生き続けてるまことが、どれだけのことをしまい込んで生きてるんだろうと思ってしまいました。
そして、2人の食事中、背後に映りこむまことの奥さんの笑顔と、あの大型商業施設でよく描かれてる家族の似顔絵がまたやばかった。。
埃を被っているわけでもなく、そこに今も存在している写真と絵。
頭の中で亡き奥様が子育てしてる姿が勝手に浮かんじゃって、違うところで号泣。
海役の松本妃代さん、すごい素敵な女優さんっ!!
めっちゃファンなった!!
あの自暴自棄ともとらる女の子から妻になって母になる決意をした女の顔にやられました!
皆罪人だ!って私も鉄パイプ肩に背負って父親に言いたかった!笑

そして堂島編は、
まずれいこのお母さん。
もうだめ母っぷりが最高でしたね笑笑
もうあんな彼氏娘に紹介しちゃだめだし、あいつなんだったられいこも食おうとするぞ?って思ったし、なんだったら牽制すらしてたし、もうとよた真帆さん最高でした。
ああいう役を軽く、ふわっと、しかもちょっと可愛らしくできちゃう女性、すげぇなぁと思っちゃう。

そして前田敦子さん。
もう映画の中では前田敦子さんではなく、紛れもないれいこでした。
れいこの長い人生の中のあのたった一日を垣間見させてもらえた、そんな感覚がずっとあります。
憮然としている時、心を閉じている時、怒りに満ちている時、モノクロなのに手に取るように伝わってくるれいこの感情。
素晴らしかった。

そして、れいこがあの日出会ったのがトトで本当に良かったと思いました。
無責任で軽々しくて、でも、きちんと対峙をしてくるそんな男の子だから、れいこも無作法に思いっきり全ての憤りをぶつけられたのだと思う。
あの軽薄さと切実さを紙一重で演じた坂東龍太さんも素晴らしかった。
あの重さでれいことして対峙してきた前田敦子さんとあんなふうに踊れる人はそういない。

ここまで読んでくださってありがとうございます!!
鑑賞してもう1週間近く経ちますが、いまだにふっとこぼれ落ちてくるように、最後のれいこの歌声が耳に響きます。
あれは自分の人生を初めて生きようと思えたれいこの歓びの賛歌だったのかもしれない。
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