しょうやん

あんのことのしょうやんのレビュー・感想・評価

あんのこと(2023年製作の映画)
3.8
実話だと言う事、しんどい話だ、ぐらいで、出来るだけ情報を入れないようにして、観賞。
冒頭の死んだような目をした少女から、受け入れられ、励まされ、人の役にたちながら懸命に生きる姿に目頭が熱くなり、断ち切れない生んだと言うだけの母や、色々な物を壊したコロナ禍に巻き込まれ、そして飲み込まれた少女に、胸が苦しく、救いの無かった彼女の短い人生がただただ無性に悲しかった。あの母親に罰が当たりますように、と心から祈った…
杏を演じた河合優実、スクリーンの中で杏として確かに生きていた。今後が楽しみな女優だ。他の出演者も本当に素晴らしかった。最初に杏を救った多々羅刑事役・佐藤二朗の人垂らし感や何処か胡散臭い感じ、いい人っぽい癖に仕事の為にやってる抜け目なさが滲む記者桐野役・稲垣吾郎を始めとし、杏の母や施設長など皆そこで生きている人だった。入江監督はやはり凄い。
小学校の仕事をしてた時に、市営団地をかかえた学校で勤務した時期があった。杏ほどのは無かったが、本当にいろいろな家があった。7歳の子の前で自殺未遂を繰り返す母に、自分が学校に行ってる間にママが死んじゃうかもと不登校になった子もいた。映画の中で「義務教育の放棄は自己責任」と言っていた役人がいたがあれは間違っている。義務は子供が教育を受ける義務じゃなく、親が子供に教育を受けさせる義務であり、それは行政にもあるはずだ。子供にあるのは教育を受ける権利だ。その権利を奪い、放棄させた責任は大人にあるのだ。子供は家庭を選べない。酷い親の元に生まれるのも、何不自由ない家に生まれるのも、子供は望んだ訳では無い。でも生きることは皆同じでこの先どうなるかは、選ぶ機会もある。でも、それには助け寄り添う大人と、居場所が必要だ。わかってはいても、あれこれ手を差し伸べても、できる事できない事があり、事態が直ぐに好転するほど変わる訳ではなく、自分の無力さに悶々とする。あの時、あの子に私は何をしてあげられたのだろう… 映画を見ながらずっと考えていた。答えは出ない。
しょうやん

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