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青春のarchのレビュー・感想・評価

青春(2023年製作の映画)
3.3
長江デルタ地域の子供服工場で住み込みで働く10代の若者たちの生活を追ったドキュメンタリー。ワン・ビンのドキュメンタリーは初。

10代の若者たちが、手慣れた手つきでミシンの針を走らせる。背後では爆音のポップ・ミュージック。その光景は日本ではまず見慣れない光景である訳だが、しかしそれは我々が中高時代に過ごしたいわゆる"青春"が繰り広げられる場所に他ならないのだ。テストの点数を競うかのごとく、成果を競い、年相応な恋をする。
若さから来る普遍的な感情や欲望、関係性が私たちと何かしらの縁を結んでくれるのだ。
だが最も興味深いのは、それと並行して繰り広げられる賃上げ抗議である。我々の"青春"の記憶にはないそれは、彼らの青春と同時進行のもので、如何に既視感に包苛まれようとそこは、工場で、職場なのだ。

いわゆる中心人物を用意するわけでなく、群像劇的に撮られている本作は、密接に営みの中に潜り込んでいく。被写体との異様な距離感、カメラの実態の薄さには毎日通いつめたからこそ、空気に溶け込めたのだと思わされる。

ワン・ビン監督曰く、自分がやるべき仕事は「世界から見えない人たちの生を記録すること」。
まさにそのやるべき仕事が成された作品だと感じた。
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