Yoshishun

サイレントナイトのYoshishunのネタバレレビュー・内容・結末

サイレントナイト(2023年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

“”

ジョン・ウー最新作!なのにイマイチTLが盛り上がっていない本作。名探偵コナンも始まり今週来週辺りでひっそりと打ち切られそうだが、やはり『男たちの挽歌』を生み出した男の新作なのだから観に行かない訳には行かない。しかし、前作『マンハント』が年間ワーストに選んだように、近年はイマイチパッとしない作品を連発している。本作は全編ほぼ台詞なし、息子を殺され自身も声を奪われた父の復讐劇というどう考えても面白くなる要素しかない。期待と不安半々で挑んだのだが、まさかまさかの『マンハント』以上にパッとしない作品で軽くショックを受けた。

本作の大きな特徴としては、極力台詞が排除されていることにある。主人公は声を奪われたことで、息子を失ってしまった悲しみから来る慟哭も痛みに対する苦悶の叫びでさえもロクにあげることができない。しかし、ジョエル・キナマンはそんな制約の多い役柄を、表情だけで見せきる。喜怒哀楽を声も上げずに演じ切るのは、ある意味サイレント映画、それもカラー映画としては難しいはずだが、違和感無く演じ切っていた。また、自らの肉体もアクションに耐え切るように鍛え上げ、『ジョン・ウィック』のように決して無敵ではないが、飽くなき執念と確固たる精神で乗り切る姿勢も素晴らしい。

ところが、本作においては、主人公だけでなく周囲の人物も何故か殆ど話さないのである。それにより、話せない主人公が向き合うコミュニケーションの阻害という側面が完全に薄れ、必要以上に無言の続くカオスな作風となってしまった。これが功を奏していれば良かったものの、この台詞の無い世界観が明らかに最大の欠点となってしまっている。声を失った主人公に対してメッセージアプリでしか話しかけなくなる妻、リハビリ中に何も声をかけない看護師、メッセージアプリでしか連絡を取り合わない麻薬組織、そして無能警察の烙印を押されながらも主人公と一緒に敵陣に乗り込み味方面を見せる黒人警官。誰しもが話せば解決するようなこと、話さなきゃいけない状況で何故か話さず、これがコロナ禍でのディスコミュニケーションを揶揄してるとしてもあまりに演出が安直過ぎる。これにより、ただただ妻が可哀想なだけに映るわ、終盤の『男たちの挽歌』風な立場の違う漢達の絆が申し訳程度のシーンにしか見えない。

そもそも、ほぼ無声映画というのなら、従来のジョン・ウー映画のようにビジュアルがかなり重要になってくるのに、本作は予算が足りなかったのか、明らかにスケールが小さく、ジョン・ウーお得意の白鳩やサングラスも封印され、スローモーションも二丁拳銃もお供え物のような扱いしかされない。もっとビジュアル面で魅せてくれないと、この題材ではとにかくシリアスで監督の作風と合わない瞬間が多く観ていて辛い。お得意の長回しアクションでさえも、雑魚敵が少な過ぎるのと、ガンアクションの見辛さが災いして爽快感が殆ど無い。加えて、キャラクターの言動の馬鹿さ加減も酷く、縛っている敵の目の前にナイフを置いて返り討ちに遭う主人公、ギャングの抗争下で呑気にクリスマスの話題を振る警察の無線音声をはじめ、敵味方問わずツッコまずにはいられない行動を取り続ける。特に終盤、眼の前でマシンガン乱射している中でわざわざ飛び出していく主人公達には最早笑うしかなかった(逆に装填している間に撃たないのも爆笑もの)。このマシンガン乱射はラスボスの愛人が行っているのだが、主人公に対して意味有りげな視線を向けながらも特に意味も無く銃殺されるのである。というか、黒人刑事は戦場で棒立ちするな。

また、本作は著しく映画内のテンポが悪い。息子が殺された後、犯人グループを追いかける主人公→喉を撃たれ、病院送り→病院での一幕→退院→息子との思い出に浸る→復讐に向けたトレーニングというのが前半の流れだが、溜めて溜めて爆発させるような感情の暴走というのが無いので、淡々と主人公の境遇を眺めることとなる。特に酷いのが、運命のクリスマスイブ、復讐の真っ只中でも息子の形見であるオルゴールを執拗に映し、思いに耽る場面が多いことにある。ジョン・ウーらしいアクションの合間にのんびりとしたシーンが挟み込まれ、あまりに緩急の差が激し過ぎる。というより、バランスが悪過ぎる。

『マンハント』よりもバイオレンス描写に気合が入ってそうで期待していたが、全盛期のジョン・ウーからは程遠いパッとしない作品となっていて、本当に残念だった。最近はセルフリメイクにも力を入れている辺り本当にネタ不足なのだろうが、もう『男たちの挽歌』級の傑作を生み出すことがないのか。今後の監督作にも期待だけないと感じた程には本作の完成度には頭を抱えてしまった。駄作とまではいかないが、素直に面白いとは言えない作品だ。
Yoshishun

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