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ベルナデット 最強のファーストレディのtakのレビュー・感想・評価

3.9
政治家を主人公にした映画はあれこれあるが、ファーストレディが映画の主役となるとジャクリーン・ケネディくらいしか思いつかない。本作はフランスのジャック・シラク大統領夫人ベルナデットを主人公にして、"事実を自由に脚色"して製作されたコメディ。

映画冒頭、合唱隊が"事実に基くけども自由に脚色してます〜♪"とナレーションを歌いあげる。ウディ・アレンの「誘惑のアフロディーテ」は、本筋に関係ないギリシア悲劇を演ずる俳優がナレーターと主人公への忠告者となる演出で面白がらせてくれたが、本作では合唱隊がナレーションだけでなく製作の狙いまで歌って説明してくれる。これでツカミはオッケーだ。

シラク夫妻の間に起こった公私様々な出来事をよりドラマティックに、より面白おかしく見せてくれる。パリで重要な事件が起きた時、シラク大統領はイタリア女優と密会していたという現実のエピソードも登場し、笑わせてくれる。シラク大統領を演じたミシェル・ヴュイエルモーズは、かなり本人に風貌を寄せている。しかしカトリーヌ・ドヌーヴは主人公であるベルナデットに全く寄せていない。古風でお堅いイメージと描かれるベルナデットは、僕ら映画ファンがカトリーヌ・ドヌーヴに持つ、おしゃれで進歩的なイメージとは正反対だ。

しかし、大統領夫人という立場は夫の引き立て役になることを求められがち。映画でも前半から目立つな、つまらない事を言うな、黙っていろ、妻の行動で大統領のイメージを壊すな、とあれこれ注文をつけられる。夫たる大統領だけでなく、補佐役の娘クロードからもだ。"時代遅れ"と評された大統領夫人のイメージアップのために顧問としてベルナール・ニケがつけられる。ベルナデットは過去のニケの印象から頼りにならないと決めつけるのだが、次第に2人は互いのいいところを導き出して快進撃を始める。

見た目から始まったイメチェンは、地方議員でもあるベルナデットの評判も上げていく。そんな彼女を好ましく思わない大統領の側近たちは、選挙情勢や政治に対するベルナデットの助言に耳を貸さない。しかしいちばん現実の感覚に近いのはベルナデット。やがて古風と言われたファーストレディは人気を獲得していくことになり、落ち目になりつつあった大統領の立場を救う活躍を見せることになる。

脇に追いやられた女性が自分を取り戻し、大統領と家族を守るために毅然と立ち向かう姿は、とにかくカッコいい。フランソワ・オゾン監督作「しあわせの雨傘」でもドヌーヴは、飾り物の社長夫人から自分にしかできないことを見出して輝くヒロインを演じている。本作のベルナデット役は、そのイメージと重なる。実在の人物を面白おかしく演じるだけでなく、本人のパブリックイメージをアップさせるようないい仕事。これは日本映画ではなかなかできない。

助演陣がみんな素晴らしい。あまり出演作を観ていないのが申し訳ない。顧問ニケ役のドゥニ・ポダリデスのコミカルな働き。娘クロードを演じたサラ・ジロドーは政界で頑張りながらも、自分に無理をしている弱さを感じさせて好演。ひと癖ある魅力的な人々が楽しませてくれる。
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