しん

占領都市のしんのレビュー・感想・評価

占領都市(2023年製作の映画)
3.3
全編を通じて不思議なドキュメンタリーだった。映されているのは新型コロナウイルスの感染拡大から日常を取り戻していくアムステルダムの風景。しかしナレーションはナチスに占領された時期のアムステルダムの記憶。街の各地で行われたナチの蛮行、それぞれの隠れ家から連行されたユダヤ人たち、住民たちが苦しんだ1944-1945年の飢餓の冬。こうした痕跡は「demolished(破壊された)」が、ドキュメンタリーという手法によって薄らと浮かび上がってくる。気候正義を求めるシュプレッヒコールの下に眠る80年前のレジスタンスたち、オンライン会議が行われる部屋から80年前に連れ去られた子供たち、結婚式を挙げているカップルの足元に80年前に埋められた若者たち。

80年の月日は、すべてを洗い流すのに十分な時間だ。本作もナレーションがなければ、アムステルダムのプロモーションにしか見えないかもしれない。当時の建物の多くはdemolishedであり、誰かが語らなければ失われてしまう。本作が語り直しに成功しているのかは分からない。観客が何を受け取るかに掛かっている気もする。

アジア・太平洋戦争も同じ距離である。東京・札幌・那覇は。もっと言えばソウル・マニラ・南京は。過去と真摯に向き合う記憶実践のあり方として、本作の試みは興味深かった。
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