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ゴースト・トロピックのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ゴースト・トロピック(2019年製作の映画)
4.2
 年代順に観れば良かったのだが『Here』を先に観てしまったので、『Here』ほどは完璧な映画ではない。然し乍らどちらもベルギーのブリュッセルに暮らす移民の映画で、都市の暗部=真夜中に目覚める夢遊病者たちの物語でもある。長い一日の仕事を終えた掃除婦のカディジャ(サーディア・ベンタイブ)は、地下鉄の最終電車で思わず眠りに落ちてしまう。冒頭の永遠に続くかに見えた彼女の高笑いの後、20年間1度も寝過ごしたことのない彼女が列車の規則的なリズムに思わず意識を朦朧とさせる。このシークエンスは規則的なスタンダード・サイズで切り取られた16mmフィルムの映像の中で突然音声は突如途切れて行く。終点で目覚めた彼女は、家へ帰る方法を探すが、もはや歩いてしか帰れないことを知る。愛娘に絶望のヘルプを寄せるものの、アッパーな週末の快楽に身を委ねるとしたら、自力でのマイホームへの帰路が主人公には待ち構えるのだ。

 一見して高齢者の受難を扱った物語でありながら、おそらく想起されるのはシャンタル・アケルマンの『一晩中』やアニエス・ヴァルダの『冬の旅』に違いない。女性にとって深夜の一人歩きがどれだけ危険であるかの時代を一回りも二回りも通過したカディジャの目には、昼間とはまったく別の様相を呈するベルギーの首都ブリュッセルの夜の街で起こる出来事はひたすら衝撃的な事件に移り、面食らう。ある種、母親の視点から見た夢遊病者たちの旅=グローバル資本主義の欲望を旅行者の視点で綴る辺りがひたすら痛快で、18歳の少女モナ(サンドリーヌ・ボネール)の旅だった『冬の旅』とは打って変わり、後期高齢者目前の移民労働者の旅は男性的な欲望とは切り離され、もはや同情と哀れみしか寄せられない。いかにもグローバル資本主義を推奨してきた大企業で働く主人公の目線は、極めて斬新にこのグローバル資本主義の矛盾と現実を見つめる。16mmの映像の質感を味わうならA列〜C列をオススメするというか、恐らく後ろでの鑑賞では16mmフィルムの効果は感じられない。これはケリー・ライカート映画も同様である。『Here』同様に途中までは完璧だったのだが、娘の登場場面からショットの選択がやや類型的になった気がしたので不本意ながらこの点数にしたものの、一瞬でバス・ドゥヴォス映画の虜になった。
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