耶馬英彦

映画 ○月○日、区長になる女。の耶馬英彦のレビュー・感想・評価

4.0
 選挙を扱った映画をいくつか鑑賞したが、ドラマよりもドキュメンタリーが多かった気がする。選挙はそれ自体が人間ドラマだから、候補者とその周囲の人々のシーンを撮影すれば、それなりのドラマになる。ドキュメンタリーの場合は編集が、監督の腕の見せ所だ。
 その点、本作品のペヤンヌマキ監督の編集はとても見事だ。最初に自分の身近な話をして、区政が必要なことをしないで迷惑なことばかりする事実を伝える。国政でアホノタロウが健康保険証を廃止しようとしているのと同じだ。どちらも、関係企業の利権の匂いがプンプンする。

 改めて、選挙に対する有権者の姿勢が問われた気がした。政治というのは税金の使い方が一番重要で、国会でも一番時間を割くのが予算委員会だ。納税者は使い方に注意を払わなければならないし、どういう使い方をしようとしているのかでどの政治家に投票するかを決めなければならない。
 会社で給与計算をしたことがある人なら知っていると思うが、勤め人の給与はガラス張りで、天引きされる所得税と住民税と社会保険料の合計は給与総額の3割を超える。所得が低いほど割合は高くなる。取られるという感覚だ。だからそれがどのように使われるのかを気にしない有権者の気がしれない。

 税金はまず困っている人に使ってほしい。次に生活の安全、利便性、最後に将来の不安の解消のために使う。誰が考えても似たような優先順位になると思う。
 国民の被害妄想を煽って何兆円もの武器を買うのは、アメリカに身売りしているようなものだ。それも政治家自身の保身のためである。能登半島地震の対策も後回しで後手後手の対応になっている。
 そういう政治はだめだと思っている有権者も多いと思うのだが、にもかかわらず、中央でも地方でも、政治の中心は自民党の議員たちである。利権集団が団体票をまとめて自民党に投票しているからだが、投票率が上がって無党派層の投票の割合が増えれば、本作品で紹介されたように、無名の新人が区長になれるかもしれない。
 その意味で希望の持てる作品である。日本の有権者も捨てたものではないかもしれないと思わせてくれた。政治に絶望している人や気持ちの沈んでいる人が観たら、元気になるかもしれない。
耶馬英彦

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