ヨーク

インサイド・ヘッド2のヨークのレビュー・感想・評価

インサイド・ヘッド2(2024年製作の映画)
3.9
これまでアニメ映画の世界興行収入トップだった『アナと雪の女王2』を抜いて本作『インサイド・ヘッド2』がアニメ映画としては世界トップの興行収入を達成したらしい、というニュースを聞いたときには素朴に、すごいなー、と思いつつも内心(なんで?)という気持ちもあった。一応俺も最初の『インサイド・ヘッド』は観ていたし、さすがのピクサー作品で良く出来とるなーオモロイオモロイ、くらいには思っていた記憶があるのだがその続編がここまで大ジャンプというほど跳ねるっていうのは、え…マジで!? 感が拭えなかったのである。
ひとまず映画としての出来(俺の個人的な評価)は置いといても前チャンプである『アナと雪の女王2』はまだ分かるよ。前作『アナと雪の女王』の時点で全世界10億ドルを越える興収だったのでその続編が14億ドルという超特大ヒットに繋がったというのもまぁ分かる。でも『インサイド・ヘッド』は…と思って調べたら1の時点で8億ドルも興収があったわ…。なんだ1の時点で大ヒット作だったんじゃん。なんとなくイメージで3~4億ドルとかそのくらいかと思っていた…。多分日本国内の興収では『アナと雪の女王』が圧勝しているだろうからそのイメージに引っ張られたのかな。まぁでもだ! そうは言っても8億ドルから倍近く興収を伸ばしているのだからこれは驚異的である。普通続編ものって伸び悩むからね。だからやっぱここまでのメガヒットというのは何でなんだろうと腑に落ちないところはあったんですよ。
でも実際に劇場へ行くとそのイマイチ腑に落ちなかった特大ヒットの一端が分かった気がした。というのも客の7割くらいが親子連れと10代の友人同士という感じだったんですよね。友達連れの中高生くらいの年齢層がとても多かった。あー! って思ったよ。世代代わったんだー! と思ったもん。これ多分子供の頃に前作を観たちびっ子が現在ライリーと同世代ってことなんだよな。俺なんかにとってはピクサーといえば『トイ・ストーリー』って感じだけど、もう10代の少年少女にとっては『トイ・ストーリー』のピクサーじゃないわけだ。考えてみりゃ今の10代が生まれる前に始まったシリーズだもんな。まぁ『トイ・ストーリー』もまだ続編やる気満々らしいけど、なるほどなーと思ったよ。
前作が2015年の映画なので正に今の中高生か大学生くらいにとってはドンピシャの映画でしょ。もしかしたら生まれて初めて見た映画が『インサイド・ヘッド』だったりしたのかもしれない。もちろんピクサー側もそういうマーケティングは徹底的にしてるだろうから本作での主役であるライリーはハイスクールへの進学を控えた思春期真っ只中という設定にしたのであろう。前作を見ていたときにはちょっとお姉さんくらいの感じだったライリーに自分を重ねて観ることができるように。その狙いが想像以上にハマったんじゃないかなと思いますね。
そうかー、昔は『ハリー・ポッター』シリーズが全世界で超大ヒットしたときに新しい世代のものなんだなー、としみじみ思ってしまったがディズニーやピクサーのファン層も1世代若返ったのかもしんないですね。客の年齢層を若返らせることができるっていうのは同一スタジオとか同一シリーズの範疇内ではとても難しいことなのでそれを達成したとしたらやっぱディズニー、というかピクサーは凄いスタジオなんだと思いますよ。ガンダムシリーズとか週刊少年ジャンプなんかはおっさんや腐ったおばさんの声がデカすぎて本当に子供が見てんのかな…とか思っちゃいますからね。その点、少なくとも俺が観た回では10代が半数近くはいた本作は凄いもんですよ。まぁ俺はおじさんなので、今度こそさようならラセターの気持ちで観てしまったが…。
と、ここまで映画の内容には一切触れずに進んでしまったがこれはあくまでも『インサイド・ヘッド2』の感想文なので感想を書こう。うん、映画としては特に何も言うことがない流石ピクサーの新作という出来でした。
お話は前作同様、主人公ライリーの脳内にいる感情を擬人化したキャラクターが現実でライリーが直面する問題に対して右往左往するというお話で、今作ではハイスクール進学を控えて友人との別れや、新しい場所で上手くやっていけるのかという大きな不安に苛まれたライリーを擬人化した感情たちが応援するというお話ですね。
まず面白いのは前作ではヨロコビとイカリとビビリとムカムカとカナシミだけだった5種類の感情に対して新しくシンパイとイイナーとハズカシとダリィとナツカシという面々が増えている。これらの感情の違いっていうのはまぁ一言で言うと、前作の感情たちは全て原始的でむき出しな感情であるのに対して本作でのものはやや高度で複雑な回路を持つものである。もっと言えば社会的な活動を送る上で必ず現れる感情たちである。まぁ嫉妬や羞恥なんかは幼児でも示す感情ではあるが、それらを自覚していくのはやはりある程度の経験を経てからであろう。本作で描かれたハイスクールでのホッケーチームへの推薦権を賭けた合宿というのは新しく出てきた感情を描くためには上手い舞台設定だと思いましたね。
最初、ライリーは仲良し3人組でハイスクールのホッケー部へと進む気満々だったのだが上記したように2人の友人は家庭の事情かなんかで別の学校へ進学することになり、ライリーは1人でハイスクールのホッケー部に挑むことになる。新しい場所で上手くやっていくためには古い友情は切り捨ててこれから付き合う先輩たちと仲良くした方が合理的である。でも急に今までの友達に冷たく当たったりしたら感じ悪くない? でもハイスクールで1人ぼっちになるのも嫌じゃない? ということを逡巡して思春期ライリーの頭はオーバーヒートし、その結果自身の感情も制御することができなくなって新しく生まれたシンパイの感情ばかりが肥大化していくのである。
これは上手いなーって思いましたよ。ライリーと同世代で今現在思春期真っ只中の観客は見事にそこにシンクロするだろうし、俺みたいにそういう客の親世代のおじさんおばさんは、そんなに心配しなくても大丈夫だよ何とかなるよというナツカシが顔を覗かせるのである。ストーリー的には特に必要の無いナツカシは大人を(実際に子供はいなくても)本作の物語内に引き込むために存在しているんだと思いますね。実に上手いと思う。
まぁ映画としては何やかんやありながらも上手いこといっていい感じに終わるわけだが、前作から引き続く不要な感情などないというバランス感覚は今回もしっかりとしていて隙のない良い出来の映画でしたね。基本的にはコメディ色の強いドタバタ劇だが「大人になるっていうのはヨロコビが少なくなるっていうことかもしれないね」っていう苦みのあるセリフも飛び出してくるのが流石という感じでした。
あとはアレかな、主要キャラではないけどクラウドとセフィロスを足したような日本のアニメ・ゲームまんまな感じのライリーがひそかに憧れてる架空のキャラとか出てくるんだけど彼はとても良かったですね。牢屋から出るときのオブジェクトに引っかかってるゲームキャラ的な動きは絶品で爆笑してしまったが、あれは10代には通じない笑いじゃないかな。多分あのキャラは村山佳子の仕業ではないかと思うがどうなのだろう。
最後に、俺は吹き替え版で観たんだけど評判にもなってる多部未華子は素晴らしかった。ライリーと共に実質主役であるヨロコビを引き継いだ小清水亜美の演技も前任者と比べて全く違和感がない仕事でしたね。前作ほどの見せ場はないものの大竹しのぶも圧巻、というか大竹しのぶの演技力に関しては言うまでもないところだが。
まぁそんな感じで面白く楽しい映画でした。とは言っても興行成績がそうだからといって世界最高のアニメ映画だ! などとはこれっぽちも思わないですけど…。まぁ売れる作品というのはいつの世も広く浅くなものなので個人に深く刺さるかというとそうでもないかもしれないけれど、その分誰が観てもそれなりには楽しめるんじゃないですかね。
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