いけ

侍タイムスリッパーのいけのネタバレレビュー・内容・結末

侍タイムスリッパー(2023年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

設定ありきのコメディかと思いきや、割とシリアスなテーマを扱った大真面目な作品だった。
とはいえ、かなりコメディ演出が強めなので、劇場で度々笑いが起こるくらい楽しく見れる作品だった。

作品の主題は、異なる政治思想を持つ者同士の争いは避けられないのか?
過去に命懸けで戦った者たちの思いはどうなるのか?という話だと思った。

まず、気象現象の演出が面白かった。
決闘で突然降り始める雨と雷。
インサートで差し込まれるモクモクと膨らむ入道雲。
カットの掛け声で突然降り止む、撮影の演出として雨。
などなど。
雲のように時代は流れて移り変わっていくけど、雷の音のように今も昔も変わらないものもあることを演出してるようだった。

高坂と風見の対比が、会津藩と薩摩藩の対比から始まり、そこに名もなき斬られ役と時代劇を捨てたスター俳優の対比が加わるのが面白かった。

戊辰戦争の顛末を知り落胆する高坂と、演技で人を斬る度に昔のトラウマが蘇る風見を見ると、戦争は勝者にも敗者にも傷を負わせるんだなと思った。
そんな傷を癒したり、後世に伝えていくのは、映画や演技やフィクションの力なのかも知れない。
斬られ役を演じて死を疑似体験する高坂に、「カット!OK!」と声が掛けられるのは、単に演技が良かったということだけではなく、「あなたの人生は素晴らしい!」と掛けられているようで不意に涙が出た。
真剣で戦った2人に贈られるスタッフからの大拍手は、幕末を生きた先人たちへの拍手のように見えた。

異なる思想を持つ者の争いは避けられないのかもしれないし、歴史は過ぎ去り勝者の大文字の物語に回収されていく運命なのかもしれない。
雲のように移ろう世の中で、いつかは忘れ去られるけど、雷の音のようにそれでも変わらずに残るものもあるのかもしれない。
映画を見終わってそんな気分になった。

作品として面白く鑑賞したけど、やはり真剣を使った芝居は避けるべきだったし、それをドラマチックなものや役者根性として描くのはNGだと思う。

優子殿の描き方も中々ギリギリだったと思う。
優子殿は助監督として現場の倫理を司る頼もしい人だったけど、優子殿に作品としての倫理を全て背負わせてるようで、ちょっと辛かった。
都合よく高坂に恋する女性として描かれなかったのは良かったけど。

大きな選挙が日本でもアメリカでも行われる2024年にこの作品が公開されたのは、面白い偶然だと思った。
とかく分断の時代と言われる昨今だけど、もっと先の未来まで見据えたマクロの視点なら、異なる思想を持つものでも争わなくて済むのかもしれないなと思った。
いけ

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