千年女優

ぼくが生きてる、ふたつの世界の千年女優のレビュー・感想・評価

4.0
宮城県の港町に聴覚障害を持つ両親と元ヤクザの祖父に宗教に熱心な祖母と共に暮らす少年で、成長に連れて次第に周りとは違う家庭環境に苛立ちを募らせていく五十嵐大。高校卒業後に父の後押しもあって東京へ単身上京した彼が、東京の聴覚障害者たちとの交流やライターの仕事を通して母との関係を見つめ直す様を描いたドラマ映画です。

大阪芸術大学卒業後に大林宣彦に師事して監督デビュー後は『そこのみにて光輝く』『君はいい子』ら様々な人間関係の機微を描いて国内外で評価される呉美保がライター五十嵐大の実体験を記したエッセイを映画化した作品で、オスカー作品『コーダ』に触発された母親役の忍足亜希子を始め実際の聴覚障害者が主演の吉沢亮を盛り立てます。

脚本時点では回想だった物語を監督の希望で誕生からの直線の時系列に変更していて、それが彼女らしい小さくとも決して見過ごしてならないエピソードを丁寧に積み重ねる作風と呼応して観客の心を捉えます。負の感情はいくらでも口をついてしまうのにその逆は言葉にならない。それでも伝わるべきものが伝わることを願わされる一作です。
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