空母ポンタヌフ

トラペジウムの空母ポンタヌフのレビュー・感想・評価

トラペジウム(2024年製作の映画)
4.1
アイドルに憧れる少女たちのキラキラ下物語と思いきや。チームビルディングあるいは組織論的な感じもする、人間関係に生きる人はわかる必見の映画。主人公はノートに叶えたい夢を具体的なやることを書き出して引き寄せの法則よろしく、アイドルへの道を進んでいく。自らのセルフプロデュースコンセプトに合致した人間に近づき打算的に友情を育んでいくその様は、客先のキーパーソンに近づいていく会社員の様相だ。前半パートのアイドルデビューまでの道を信念と強い意志で猛進していく主人公の様子は、さながらSNSで揶揄されがちな短髪ツーブロックをガチガチに硬めてネイビースーツを身に纏い自己啓発本を読み耽って圧倒的成長のためには長時間残業も厭わない営業パーソンの姿と重なってくる。さらに、前半から後半に転換していくシーンで、主人公がアイドルになるためのオーディションに全て落ちた挫折を味わったことが明かされ、主人公が挫折から立ち直った強い意志力を感じられ、主人公の強さがより鮮明になる。
 そして後半、ついに待ちに待ったテレビデビューとアイドルへの道。主人公以外の3人はアイドルであることに苦悩をしているが、主人公はそこに「なんでできないの?」というモラハラを繰り返していく。主人公だけが歌が上手く口パクをしないという努力を怠らない描写があったり、プロデューサーと次の一手を話し合うなどまさにスーパーマン的なしゅわんを見せており、おそらく意志力の異なる主人公にとっては他のメンバーは努力が足りないとうつっていたのだろう。ファンレター画主人公だけ少なく打算と計算だけでは人の心を動かせないことを示すような描写もあるが、主人公の意志力を強化するだけ。まさに会社組織におけるブリリアントシャーク的なムーブをする主人公であるが、その帰結として当然ながらグループは崩壊していく。その過程でお互いのアイドル観を議論するシーンがあるのだが、そこの同じ言語を話しているはずなのに価値観が異なりすぎて話が通じない描写は恐ろしい。
 さて、しかしながらこれ以降の展開には、さすがアイドルアニメと言うべきか、救済画用意されている。主人公は自身の振る舞いとその帰結によってようやく掴んだ夢を失ったことを理解し、自らの誤りを認める。そこでかけられるいやところもいいところ含めてあなたなんたというセリフが素晴らしい。謝罪行脚を始める主人公、いいところも悪いところも含めて自分なんだと自覚していくその過程とメンバーとのやり取りから涙腺が緩んでしまうほどの良い(しかし二度と戻らない)青春模様が展開されて感動。それほどやらないと人の心を動かすアイドルにはなれないんだという強いメッセージ、ひとを笑顔にするには強い意志力と周囲への思いやりが必要だという強いメッセージを強く感じる。
そしてエンディングの方位磁針と自分自身をかけた歌詞にも感動して終わり。前半のモラハラパートはたしかに人は選ぶが、物語としてきれいに帰結する。ワンクールのアニメとしてもやっていけると思う。